2025年12月13日、東京都稲城市を発着点とする「サイクルボール 多摩いちチャレンジDAY」が開催されます。このイベントは、全長約82km、獲得標高1,156mのロングライドコースを、先着50名限定・参加費無料・サポートカー付きで走破できる貴重な機会です。多摩川サイクリングロードから大垂水峠、そして南多摩尾根幹線道路(オネカン)まで、多摩エリアの魅力を凝縮したコースを体験できます。この記事では、コースの詳細攻略法から装備の選び方、立ち寄りスポットまで、参加を検討している方に役立つ情報を網羅的にお届けします。

サイクルボールとは?シーズン6を迎えた分散型サイクリングイベントの魅力
サイクルボールは、一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパンが主導するサイクリングイベントで、2020年の開幕以来、2025年でシーズン6を迎えます。このイベントの最大の特徴は、日本全国の象徴的なサイクリングコースを「ステージ」と見立て、期間内であれば「いつでも、誰とでも、ひとりでも」挑戦できるという柔軟性にあります。参加者は専用アプリ「ツール・ド」を使用し、GPS機能で指定されたスポットにチェックインすることで完走認定を受けるという、ゲーミフィケーション要素を取り入れた画期的なシステムを採用しています。
従来のスタンプラリー形式とは異なり、物理的な接触を伴わずに正確な走行ログに基づいた認定が可能となっており、コロナ禍を経た新しいサイクルイベントの形として定着しました。分散型のため密を避けながら楽しめる点も、現代のサイクリストに支持されている理由の一つです。
多摩いちチャレンジDAYの開催概要と参加条件
今回のチャレンジDAYは、サイクルボールの基本設計である自由な挑戦スタイルとは対極にある「特定日開催・定員制・サポート付き」という形式を採用しています。これは単なる制限ではなく、ロングライド初挑戦者や中級者にとって大きなメリットをもたらします。
開催日は2025年12月13日土曜日で、集合場所は東京都稲城市の「稲城北緑地公園」特設ブースとなります。この公園は多摩川沿いに位置しており、有料の駐車場が24時間利用可能で、公衆トイレも完備されているため、サイクリングの拠点として理想的な環境が整っています。受付開始は午前8時20分で、ブリーフィングを経て午前9時にスタートします。ゴール制限時間は16時00分に設定されており、日没時間が早い12月において安全に走行を終えられるタイムスケジュールとなっています。
定員は先着50名限定で、大規模なグランフォンドイベントとは異なり、濃密なコミュニティ体験が期待できます。特筆すべきは参加費が無料である点で、サポートカーの帯同や保険の付帯といった高品質なサポートをリスクなく受けられる稀有な機会となっています。通常、ロングライドへの挑戦にはルート作成、機材トラブルへの対処、補給計画の策定といった負担がすべて個人の責任となりますが、今回のチャレンジDAYではこれらの障壁が大幅に低下しており、ロングライド未経験者にとっての入門機会としても最適です。
稲城市が「自転車のまち」と呼ばれる理由
スタート・ゴール地点となる稲城市は、東京のサイクリストにとって特別な意味を持つ場所です。「自転車のまち稲城」というブランディングは単なるスローガンではなく、実体を伴った都市構造に基づいています。
その象徴が「南多摩尾根幹線道路」、通称「オネカン」です。多摩ニュータウンの骨格として整備されたこの道路は、広幅員の側道と適度なアップダウンを有しており、意図せずして世界レベルのトレーニングコースとしての機能を獲得しました。週末になれば数百、数千のロードバイクが行き交うこのエリアは、日本国内でもこれほど高密度にサイクリストが存在する場所として稀有な存在となっています。
さらに決定的だったのが、2020年東京オリンピックの自転車ロードレース競技のコースとして使用されたことです。世界最高峰の選手たちが駆け抜けたそのアスファルトの上を市民サイクリストが走ることができるという「体験の共有」は、他の観光地にはない強力な魅力となっています。
大河原邦男氏デザインのキャラクターが彩る稲城の街
稲城市の独自性をさらに際立たせているのが、アニメーション文化との融合です。「機動戦士ガンダム」や「タイムボカンシリーズ」のメカニックデザインで知られる大河原邦男氏が同市在住であることから、市内の至る所にモニュメントが設置されています。
自転車に関連して特筆すべきは、稲城市公式イメージキャラクター「稲城なしのすけ」に加え、自転車をモチーフにした「オネカン戦士 稲城ペダリオン」というオリジナルキャラクターの存在です。ペダリオンは、ロードバイクのメカニカルな美しさをロボットデザインに昇華させたキャラクターで、サイクリングジャージを身にまとったようなフォルムをしています。このようなサブカルチャーとの接続は、従来のスポーツサイクリング層だけでなく、アニメファンやコンテンツツーリズム層を巻き込む可能性を秘めており、多摩エリアの観光資源に厚みを加えています。
サイクリストの「居場所」となるカフェ文化
ハードウェアとしての道路とソフトウェアとしての文化に加え、サイクリストを支える「居場所」の充実も稲城市の特徴です。矢野口駅前の「Cross Coffee(クロスコーヒー)」は、サイクルウェアブランドのChampion Systemが運営しており、店内にはバイクラックが完備され、ビンディングシューズでも入店可能な床材が使用されています。
また、稲城中央公園内の「ZEBRA Coffee & Croissant」は、ロードバイクを店内に持ち込める大型ラックを備え、地域のランドマークとなっています。これらのカフェは単なる飲食店ではなく、情報交換の場やコミュニティの結節点として機能しており、多摩いちのスタート前やゴール後の拠点として不可欠な存在となっています。
全長82km・獲得標高1,156mのコースを徹底解説
本イベントのコースは「多摩いち:チャレンジDAY特設メインコース」と命名されており、全長約82km、獲得標高1,156mというスペックを持ちます。数字だけを見れば中級レベルに見えますが、その内実は平坦、激坂、都市部、山間部が複雑に組み合わされた総合的な走力を問うルートです。
序盤:多摩川サイクリングロードと風との戦い
スタート直後は、稲城北緑地公園から多摩川サイクリングロードを利用して上流へ向かう展開となります。この区間の最大の特徴は「風」です。関東平野の冬、すなわち12月は北風(空っ風)が卓越する季節であり、多摩川を遡上するコースは北西方向へ向かうため、強烈な向かい風にさらされる可能性が極めて高くなります。遮蔽物のない河川敷において、風速5m以上の向かい風は体感的には数%の勾配を登り続けるのと同等の負荷を脚に与えます。
また、多摩川サイクリングロードは歩行者やランナーとの共用空間であるため、絶対的な速度よりも安全確認とマナーが優先されます。ここでは集団走行(トレイン)による空気抵抗の低減と、ハンドサインによる障害物情報の共有が、疲労軽減と安全確保の鍵となります。序盤で脚を使いすぎない「エコノミー走行」を心がけることが、後半の山岳区間を攻略するための戦略的基盤となります。
高幡不動尊で歴史と精神の休息を
コースは河川敷を離れ、歴史的な市街地へと入っていきます。通過点として設定されている「高幡不動尊金剛寺」は、関東三大不動の一つに数えられ、新選組副長・土方歳三の菩提寺としても知られています。ここでの小休止は単なる水分補給以上の意味を持ちます。歴史的建造物が醸し出す荘厳な雰囲気は、スタート直後の興奮状態にある精神を鎮静化させ、長丁場に向けたメンタルセットを整える効果があります。
萬盛堂の和菓子で補給する伝統の味
さらに西進し、八王子市高尾エリアに入ると、老舗和菓子店「萬盛堂(まんせいどう)」への立ち寄りが推奨されています。明治41年(1908年)創業の同店は、高尾山への参詣者や甲州街道を行き交う旅人に愛されてきた歴史を持ちます。店の前には立派な金魚が泳ぐ水槽があり、タイムスリップしたような風情が漂います。
ここで提供される「お団子」や「大福」は、スポーツ栄養学的にも極めて理にかなった補給食です。餅(炭水化物)と小豆(タンパク質・糖質)の組み合わせは、脂質が低く消化吸収が速いため、即効性のあるエネルギー源として機能します。特に「あべかわだんご」や「磯辺だんご」の塩味は、発汗によって失われたナトリウムを補給し、脚の攣り(痙攣)を予防する上で重要な役割を果たします。みたらし団子の香ばしい醤油の香りは疲れた脳を覚醒させ、柔らかい餅の食感と甘じょっぱいタレのハーモニーは、エナジージェルにはない「食事」としての満足感を与えてくれます。
最大の難所・大垂水峠を攻略する
八王子から神奈川県の相模湖方面へ抜けるためには、国道20号線(甲州街道)の「大垂水峠(オオダルミトウゲ)」を越える必要があります。標高約392mのこの峠は、本コースにおける最高地点の一つであり、前半のクライマックスとなります。
高尾側からのアプローチは平均勾配5%前後と比較的緩やかですが、距離が長いためペース配分を誤るとダメージが蓄積します。また、ここは主要幹線道路であり、大型トラックやトレーラーの往来が激しいため、路肩の状態や後方からの車両接近音には細心の注意を払う必要があります。
登頂後のダウンヒル(下り)は、12月の気候においては「寒さ」との戦いとなります。標高が100m上がるごとに気温は約0.6度下がるため、峠の頂上は平地より2度以上低くなります。さらに、時速40km以上で下る際の体感温度(ウィンドチル)は氷点下に達する可能性があります。汗冷えによる体温低下はパフォーマンスを著しく低下させるだけでなく、判断力の鈍化や身体の硬直による事故のリスクを高めるため、峠の頂上でウインドブレーカーを着用するなどの体温管理が必須となります。
パンパティのカレーパンで至福の補給タイム
神奈川県側へ下った後、コースは相模原市の「パンパティ こむぎのおはなし」へと至ります。ここは単なるパン屋の枠を超えたサイクリストの聖地です。同店は8時間で5,947個のカレーパンを販売し、ギネス世界記録を達成した実績を持つ名店として知られています。
牛肉がゴロゴロと入ったカレーパンは、揚げたてのカリッとした食感とスパイシーな香りが特徴で、疲弊した身体に強烈な食欲を喚起します。一口噛むと、サクッとした薄い生地の中から濃厚でスパイシーなカレーが溢れ出し、中の肉はホロホロに煮込まれており、パンというよりは上質なカレー料理を片手で食べている感覚に近いものがあります。同店は50台分の駐車場に加え、ロードバイク用のサイクルラックも完備しており、ビンディングシューズのままテラス席で食事をとることができます。
この地点は通称「道志みち(国道413号)」への入り口付近に位置しており、東京オリンピックのロードレースコースの気配を感じることができる場所でもあります。ここで十分なカロリーと休息を取ることが、後半に待ち受ける「オネカン」攻略の絶対条件となります。休日には1時間待ちも発生するほどの人気店ですが、その待ち時間さえも漂ってくる焼き立てパンの香りがエンターテインメントに変えてしまいます。
終盤の試練・南多摩尾根幹線道路(オネカン)
復路は再び東京都へ戻り、多摩ニュータウンを東西に貫く「南多摩尾根幹線道路(オネカン)」を経由して稲城のゴールを目指します。オネカンの特徴は「終わりのないアップダウン」です。一つ一つの坂はそれほど長くはありませんが、下った直後にまた登りが現れるというインターバル形状が延々と続きます。これを「バーチカル・インターバル」と呼ぶサイクリストもいます。
後半の疲労が蓄積した脚にとって、この連続するアップダウンは精神的にも肉体的にも過酷です。一定のペースで淡々と登る峠とは異なり、登り返しのたびにパワーの出力を上げる必要があるため、筋肉への負荷パターンが変化します。ここで重要になるのは、下り坂で得た運動エネルギーを無駄にせず次の登りの初期段階に利用する「勢い」の活用と、こまめなギアチェンジです。沿道には「オネカン戦士 稲城ペダリオン」が見守っているかもしれないという空想を心の支えにしつつ、多摩丘陵の稜線を走り抜けるこの区間こそが、多摩いちの真骨頂と言えます。
12月13日という時期に求められる装備と対策
開催日である12月13日は、冬至(12月21日頃)の直前であり、一年の中で最も昼の時間が短い時期にあたります。当日の東京の日の出は約6時42分、日の入りは約16時28分と予測されており、イベントのゴール制限時間16時00分は日没の約30分前には走行を終える計画であることを意味しています。
時間管理の重要性
参加者は9時のスタートから16時のゴールまで、最大7時間の持ち時間があります。82kmを完走するためには、休憩時間を含めた「グロス平均速度」で約11.7km/h以上が必要となります。一見容易に見えますが、信号待ち、パン屋での昼食、各スポットでの写真撮影やチェックイン操作、トイレ休憩などを考慮すると、実走行(ネット)の平均速度は20km/h〜22km/h程度を維持し続ける必要があります。特に冬場はトイレが近くなる傾向があるため、停止時間が予想以上に嵩むリスクを計算に入れておくべきです。
レイヤリングで寒暖差に対応する
12月中旬の多摩エリアの気温は、早朝や日陰では5度以下、日中の日向では10度〜12度程度まで上昇するという寒暖差が特徴です。この環境下でのウェア選択は、サイクリングの快適性を左右する最重要事項となります。
基本は「重ね着(レイヤリング)」です。ベースレイヤー(肌着)には汗を素早く肌から引き剥がす吸汗速乾性が必須で、冬用であっても保温性より汗冷え防止機能を重視すべきです。ミドルレイヤー(中間着)には保温性を確保するジャージを選び、アウターシェル(外殻)には防風素材のウィンドブレーカーを用意します。特に多摩川の風と大垂水峠の下りではウィンドブレーカーが命綱となるため、コンパクトに畳めるものが望ましいです。
アクセサリーも重要です。指先が冷えるとブレーキ操作に支障が出るため、0度〜5度対応の冬用グローブが推奨されます。また、耳を覆うイヤーウォーマーや、首元を守るネックウォーマー、つま先の冷えを防ぐシューズカバーも必須装備と言えます。
安全のためのライト装備
日没前のゴールを目指すとはいえ、夕方の薄暗がりやトンネル内走行を考慮し、前照灯(フロントライト)と尾灯(リアライト)の装備は必須です。特にリアライトは、トンネルや交通量の多い国道20号線において後続車へのアピールとして自身の身を守る最大の武器となるため、日中でも点灯・点滅させておく「デイタイム・ランニング・ライト」の実践が強く推奨されます。
スマートフォンとバッテリー管理
本イベントでは専用アプリ「ツール・ド」を用いた運行管理が行われるため、スマートフォンのバッテリー管理という課題にも向き合う必要があります。7時間に及ぶ走行中、GPSと通信機能を常時稼働させることはバッテリーへの負荷が大きく、モバイルバッテリーの携行は必須となります。また、アプリの操作に慣れておくことも重要で、スタート前の慌ただしい時間帯にアプリの操作に手間取らないよう、事前のセットアップと予行演習が完走への隠れた必須条件となります。さらに、路面の段差でスマートフォンが脱落する事故は後を絶たないため、振動に強い確実な固定方式のスマートフォンホルダーを選ぶべきです。
他の「〇〇いち」と比較した多摩いちの独自性
日本のサイクルツーリズムにおいて、「ビワイチ(琵琶湖一周)」「カスイチ(霞ヶ浦一周)」「シマイチ(淡路島一周)」などの「一周系」コンテンツは人気を博しています。これらと比較した際、多摩いちにはどのような独自性があるのでしょうか。
景観の密度が圧倒的に高い
湖や島を周回するルートは、地理的に明確な「線」をなぞる行為であり、迷いにくい反面、景色が単調になりがちです。対して多摩いちは、都市、河川、里山、峠という全く異なる景観が、わずか80kmの中に凝縮されています。これは「幕の内弁当」的な密度の濃さであり、飽きさせない展開が続きます。
首都圏からのアクセスが抜群
ビワイチやシマイチは、首都圏のサイクリストにとっては「遠征」となり、宿泊や新幹線輪行が必要となります。しかし多摩いちは、都心から電車で30分(稲城長沼駅や矢野口駅)でアクセスできます。日常の生活圏のすぐ隣に、大垂水峠のような本格的な山岳体験が存在しているという「非日常への近接性」こそが、多摩エリアの最大の強みです。
サイクリングコミュニティの一員になれる
多摩エリア、特にオネカン周辺は、週末になれば数百、数千のロードバイクが行き交います。多摩いちチャレンジDAYに参加することは、単に道を走るだけでなく、この巨大なサイクリング・コミュニティの一員としての帰属意識を確認する儀式的な側面を持っています。
ゴール後の楽しみ方
82kmを走り切った後は、稲城エリアでの「アフターライド」も楽しみの一つです。ゴール後の温泉として稲城天然温泉 季乃彩などが近くにあり、疲れた身体を癒すことができます。また、駅前のカフェでの反省会まで含めた「一日遊び尽くすプラン」として楽しむことで、多摩いちの体験がより深いものになります。
冬の澄んだ空気の中、多摩川の水面から川霧が立ち上ることがある朝の稲城北緑地公園には、色とりどりのジャージをまとったサイクリストが集まり、カーボンフレームのラチェット音(空転時の独特の音)がBGMのように響きます。これから始まる82kmの旅への期待と、寒さによる少しの緊張感が入り混じる中、吐く息は白くとも、ペダルを回したいという情熱は熱いものがあります。
稲城に戻る頃、太陽は西の山並み(丹沢・富士方面)に傾き始めます。オネカンの高い位置からは、多摩ニュータウンの整然とした街並みが夕日に染まるのが見えます。何度も繰り返されるアップダウンに太ももは悲鳴を上げていますが、その痛みこそが多摩いちを走り切った証です。左手に見える夕日は、今日の冒険の終わりを告げる美しいカーテンコールのようです。
多摩いちは、道があるから走るのではありません。そこに文化があり、食があり、仲間がいるから走るのです。2025年12月13日、あなたも多摩エリアの魅力を五感で体験してみませんか。









コメント