ふくしま浜通りサイクリングコースは、福島県の太平洋沿岸を走る全長約160kmにおよぶ壮大なルートであり、復興サイクルトレインを活用することで、自転車を分解せずに列車に持ち込みながら効率的に巡ることができます。この地域は東日本大震災と原子力災害から復興を遂げつつある場所であり、サイクリングを通じて被災の記憶と再生の息吹を五感で体感できる「ホープツーリズム」の舞台として注目を集めています。2025年には常磐線サイクルトレインの実証実験が行われ、いわき駅から原ノ町駅までの区間で輪行袋なしでの自転車持ち込みが実現しました。
この記事では、ふくしま浜通りサイクリングコースの全貌と復興サイクルトレインの利用方法、エリアごとの見どころ、グルメスポット、宿泊施設情報まで、サイクリストが知っておくべき情報を網羅的にお伝えします。美しい海岸線と復興の最前線を走る、世界でここにしかない特別な旅の計画に役立ててください。

ふくしま浜通りサイクリングコースとは
ふくしま浜通りサイクリングコースとは、福島県が整備を進める太平洋沿岸のサイクリングルートのことです。北は宮城県との県境に位置する新地町から、南はいわき市勿来まで、国道6号、県道、そして復興事業で整備された防潮堤上の管理用道路を繋ぎ合わせた道が続いています。このルートはエリアごとに全く異なる表情を見せ、穏やかな潟湖の風景から震災遺構、そして青々とした芝生が広がるサッカーの聖地まで、多彩な体験が待っています。
ふくしま浜通りという呼称は、福島県の地理的区分に由来しています。福島県は阿武隈高地と奥羽山脈によって、太平洋側の「浜通り」、中央部の「中通り」、会津地方の「会津」という3つの地域に分けられています。浜通りは温暖な気候と海の恵みに恵まれた地域であり、古くから漁業や農業が盛んでした。しかし、2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う原子力災害により、この地域は甚大な被害を受けました。
現在、浜通りは復興の途上にあり、新たな観光の形を世界に提示しようとしています。それが「ホープツーリズム」と呼ばれる取り組みです。ホープツーリズムとは、被災の爪痕と復興の槌音が交錯する風景の中を、自らの脚でペダルを回して進むことで、破壊と再生の物語を五感で体感する旅のスタイルを指します。単に美しい景色を楽しむだけでなく、この地で何が起きたのか、そして人々がどのように立ち上がろうとしているのかを肌で感じることができる、世界でも類を見ない旅行体験となっています。
常磐線サイクルトレインの仕組みと利用方法
常磐線サイクルトレインとは、JR常磐線の列車に自転車をそのまま持ち込めるサービスのことです。通常、鉄道で自転車を運ぶ際には「輪行」と呼ばれる方法を用います。輪行とは、自転車を分解して専用の袋(輪行袋)に収納し、手荷物として車内に持ち込む方式です。しかし、この作業は初心者にとってハードルが高く、分解・組み立てに時間がかかるという課題がありました。サイクルトレインはこの課題を解消し、自転車をそのままの状態で列車に乗せることを可能にした画期的なシステムです。
福島県内の実証実験について
2025年5月31日から11月30日までの期間、福島県浜通り地域ではサイクルトレインの実証実験が行われました。対象区間は浜通りの南の拠点であるいわき駅から、相双地方の中心である原ノ町駅までの常磐線区間でした。この実験の最大の特徴は、自転車を輪行袋に収納することなく、そのままの状態で列車内に持ち込めた点にあります。
実証実験は毎日利用できるわけではなく、期間中の土曜日と休日に限定されていました。平日は通勤・通学客の利用が主となるため、混雑緩和の観点から対象外とされていました。また、駅や周辺で大規模なイベントが開催され、著しい混雑が予想される日は、安全確保のために除外される場合もありました。
この実証実験で特筆すべき点は、実施区間内にある全18駅での乗り降りが可能であったことです。いわき、草野、四ツ倉、久ノ浜、末続、広野、Jヴィレッジ、木戸、竜田、富岡、夜ノ森、大野、双葉、浪江、桃内、小高、磐城太田、原ノ町の各駅が含まれていました。この柔軟性はサイクリングの計画に無限の可能性をもたらしました。体力に自信のない初心者が景色の良い海岸線だけを走り、難所は電車でパスするという使い方や、帰還困難区域の通行規制が残るエリアを電車でジャンプするといった使い方が容易になりました。急な天候悪化や機材トラブルの際にも、最寄りの駅からそのまま電車に乗って避難できるという安心感は、心理的なハードルを大きく下げるものでした。
利用にあたっては事前の予約が必要であり、予約はJR東日本のECサイト「JRE MALL」内の水戸支社店で行う仕組みとなっていました。自転車持ち込みに対する追加料金は無料であり、利用者は自身が乗車する区間の運賃のみを支払えばよく、経済的な負担が非常に少ない設定でした。1列車あたり最大10台までという枠が設けられており、グループでのツーリングを計画している場合は、早めの予約確保が推奨されていました。
予約が完了すると、専用の「利用証」をダウンロードできるようになりました。利用者はこれを自身で印刷し、利用日や乗車区間を記入した上で、自転車のハンドルやフレームなどの目立つ位置に掲示する必要がありました。これは駅係員や乗務員が正規の予約者であることを瞬時に確認するために不可欠なプロセスでした。
駅構内と車内でのマナーについても定められていました。そのまま持ち込めるといっても、駅構内を自転車に乗って移動することは厳禁であり、改札からホーム、そして車内への移動は必ず押し歩きで行うことが求められました。車内では揺れによる転倒を防ぐため、利用者は自転車を手で支えるか、手すり等に固定ベルトで括り付けるなどの対策が必要でした。一般の乗客への配慮として、混雑している車両を避ける、導線を塞がないといったマナーの遵守が、この制度を恒久化させるための鍵とされていました。
首都圏発着の常磐線サイクルトレイン
首都圏から福島を目指すサイクリストにとって、アプローチとして利用可能なのが上野駅から土浦駅までのサイクルトレインです。このサービスは福島県内の実証実験とは完全に切り離された別個のシステムであり、2025年10月以降、予約ルールが厳格化されました。
2025年10月4日以降の利用分から、予約方法が変更されました。利用にはJRE MALLへの会員登録と事前予約が必須となり、予約完了後に送付される注文完了メールを駅係員に提示できる状態にしておくことが義務付けられました。スマートフォンの画面提示で問題ありませんが、通信状況によってはメール画面が開けないリスクもあるため、スクリーンショットの保存やプリントアウトが推奨されています。
上野駅から土浦駅までのサイクルトレインは、上野駅と土浦駅の2駅のみでの乗降に限定されており、途中駅での乗り降りはできません。また、利用できる車両は15両編成の列車のうち14号車と15号車に限られています。これは一般客との混在を避けるための措置であり、指定号車以外への持ち込みはルール違反となります。土浦駅から先の水戸やいわき方面へは、このサービスは接続していません。土浦駅で一度下車し、自転車を分解して輪行袋に収納しなければ、その先の福島方面へ向かう列車には乗車できない仕組みです。
房総方面へ走るサイクルトレイン「B.B.BASE」には専用のサイクルラックが設置されていますが、常磐線のサイクルトレインはあくまで通常の普通列車を利用したサービスです。専用の固定器具があるわけではなく、自分で自転車を支える必要があります。過度な設備期待は禁物ですが、都心の上野駅から輪行なしで脱出できるメリットは大きいものがあります。
相馬・新地エリアの見どころ
相馬・新地エリアは、ふくしま浜通りサイクリングコースの北の玄関口として位置づけられています。宮城県との県境に位置する新地町と相馬市は、仙台圏からのアクセスも良く、比較的平坦な地形が続くため、初心者にも最適なエリアです。
松川浦の絶景とサイクリングルート
相馬市観光のハイライトは松川浦です。松川浦とは、砂州によって太平洋から隔てられた巨大な潟湖(ラグーン)のことです。静穏な水面と荒々しい外海の対比が美しい景勝地であり、ここを周回するルートは「松川浦しおかぜルート」としてジャパンエコトラックにも認定されています。
松川浦と太平洋を隔てる砂州の上に伸びる直線道路「大洲松川ライン(大洲海岸)」は、サイクリストにとっての聖地とも言える場所です。東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けましたが、2018年に再開通しました。左手に穏やかな松川浦、右手に広大な太平洋を眺めながら、信号のない直線を走り抜ける爽快感は、他では味わえない体験です。
ルート上のランドマークとして外せないのが鵜ノ尾埼灯台です。白亜の灯台からは太平洋を一望でき、周辺の断崖絶壁と松林の緑が美しいコントラストを描きます。また、松川浦の入り口に架かる松川浦大橋は、夕暮れ時にはシルエットが美しく浮かび上がり、フォトジェニックなスポットとして人気を集めています。
南相馬・浪江・双葉エリアの復興最前線
南相馬市から南下し、浪江町、双葉町へと入るエリアは、東日本大震災と原子力災害の影響を最も色濃く残す場所であり、ホープツーリズムの中核をなす地域です。
南相馬の田園と海岸線
南相馬市は「相馬野馬追」で知られる歴史ある街です。相馬野馬追とは、1000年以上の歴史を持つ伝統行事であり、甲冑に身を包んだ騎馬武者たちが神旗を奪い合う勇壮な祭りです。内陸部にはのどかな田園風景が広がり、海岸線には復興祈念公園や巨大な風力発電所が並びます。鹿島区周辺のサービスエリア「セデッセかしま」は、高速道路利用者だけでなく、一般道からのサイクリストも利用できる休憩拠点として機能しています。
浪江町と請戸小学校の記憶
浪江町に入ると、震災遺構「浪江町立請戸小学校」が姿を現します。この小学校は海岸からわずか数百メートルの場所にありながら、教職員の迅速な判断により児童全員が無事避難した「請戸の奇跡」の舞台です。校舎は津波の被害を受けた当時のまま保存・公開されており、めくれた床板や黒板に残された文字が、あの日何が起きたのかを無言のうちに語りかけます。ここを訪れることは、サイクリングという行為に深い意味を与えるでしょう。
双葉町の新しい息吹
かつて全町避難を余儀なくされた双葉町も、特定復興再生拠点区域の避難指示解除により、再び人が住める町へと生まれ変わりつつあります。JR双葉駅周辺はきれいに整備され、駅舎外壁には巨大なアートが描かれています。駅から海側へ向かうと、「東日本大震災・原子力災害伝承館」と「双葉町産業交流センター(F-BICC)」があります。F-BICCの屋上テラスからは、復興工事が進む中間貯蔵施設エリアや太平洋を一望でき、変わりゆく町の「今」を目撃することができます。
帰還困難区域の通行について
現在でも、国道6号の一部や山間部には帰還困難区域が存在します。国道6号自体は自動車の通行が自由化されていますが、自動二輪車、原動機付自転車、軽車両(自転車)、歩行者の通行は依然として規制されている区間があります。このため、浪江町から双葉町、大熊町にかけての移動には細心の注意が必要です。
近年、海側の県道や町道の規制緩和が進み、自転車でも通行可能なルート(いわゆる浜街道ルート)が開通していますが、工事車両の往来が多い場合もあります。不安な場合は、無理をせずサイクルトレインを利用し、規制区間を鉄道でパスすることが推奨されます。これが最も安全かつ確実な方法です。
大熊・富岡・楢葉エリアの桜とサッカーの聖地
大熊町と富岡町は、原発事故の対応拠点となった地域でもありますが、桜の名所としても知られています。
夜ノ森の桜並木
富岡町の夜ノ森地区は、福島県内でも屈指の桜の名所です。春には桜のトンネルができ、多くの花見客で賑わいます。避難指示解除により、この桜並木の下を再び自転車で走れるようになったことは、復興の大きなシンボルの一つとなっています。満開の時期に訪れることができれば、ピンク色に染まった道を走る忘れられない体験ができます。
Jヴィレッジと楢葉町
楢葉町と広野町にまたがるJヴィレッジは、かつて原発事故の対応拠点として使用されていましたが、現在はサッカーのナショナルトレーニングセンターとして完全復活を遂げています。青々とした芝生のピッチが広がる風景は圧巻です。Jヴィレッジ駅も新設され、サイクルトレインの停車駅となっているため、ここを拠点にサイクリングをスタート・ゴールするプランも人気を集めています。
いわきエリアと七浜海道
ふくしま浜通りサイクリングコースの南端に位置するいわき市には、「いわき七浜海道」と呼ばれる全長約53kmのサイクリングロードが整備されています。
防潮堤を活用した快走路
いわき七浜海道の最大の特徴は、復興事業で整備された防潮堤の管理用道路(天端道路)を積極的に活用している点です。これにより、信号や自動車の往来を気にすることなく、太平洋の絶景を眺めながら走り続けることができます。勿来、小名浜、永崎、豊間、薄磯、四倉、久之浜という7つの浜を繋ぐことからその名が付けられました。
塩屋埼灯台と歌の舞台
薄磯海岸には、映画『喜びも悲しみも幾歳月』の舞台となり、美空ひばりの『みだれ髪』の歌碑がある塩屋埼灯台がそびえ立ちます。海抜約73メートルの断崖に立つ白亜の灯台は、登ることも可能です。灯台へのアプローチは急な坂道となりますが、頂上からのパノラマビューは登坂の苦労を忘れさせてくれるでしょう。
小名浜エリアの賑わい
小名浜港周辺は、いわき市観光の中心地です。「アクアマリンふくしま」は東北最大級の水族館で、ガラス張りの建物が印象的です。その隣にある「いわき・ら・ら・ミュウ」は、新鮮な魚介類が並ぶ市場やレストランが入る物産センターで、サイクリングの休憩や食事に最適です。このエリアは道幅も広く、自転車レーンが整備されている箇所も多いため、初心者でも安心して走ることができます。
浜通りグルメを堪能する
サイクリングの醍醐味は、その土地ならではの食にあります。浜通りには、エネルギーを消費したサイクリストの体を満たす、魅力的なグルメが点在しています。
なみえ焼そばの魅力
浪江町を訪れたら絶対に外せないのが、ご当地B級グルメの王者「なみえ焼そば」です。なみえ焼そばとは、通常の中華麺よりもはるかに太い極太麺を、豚肉とモヤシというシンプルな具材と共に、濃厚なソースで炒め上げたご当地グルメです。一味唐辛子をたっぷりとかけて食べるのが地元流となっています。道の駅なみえ内のフードコートや、町内の認定店で味わうことができます。濃厚なソース味は、汗をかいて塩分を欲しているサイクリストの体に染み渡ります。
双葉町のレストラン エフ
双葉町産業交流センター(F-BICC)の2階にある「レストラン エフ」は、全面ガラス張りの窓から太平洋を一望できる絶好のロケーションを誇ります。福島県産の食材をふんだんに使った「ふたば丼」や、ボリューム満点のランチセットが人気です。全てのランチメニューにドリンクバーが付いているため、水分補給が欠かせないサイクリストにとって非常にありがたいサービスとなっています。
松川浦の海鮮と青のり
相馬市の松川浦周辺は、漁港が近いため新鮮な魚介類の宝庫です。「浜の駅 松川浦」にある食堂「くぁせっと」や周辺の飲食店では、水揚げされたばかりの常磐もののヒラメやカレイを使った煮付けや刺身定食が楽しめます。松川浦は青のりの養殖が盛んであり、青のりを練り込んだうどんや、サクサクとした食感と磯の香りが絶品の青のりの天ぷらも名物となっています。
南相馬のうどん文化とカフェ
意外に知られていませんが、南相馬市はうどん文化が根付いています。「そば処木音」などでは、地元産の小麦を使ったコシのある手打ちうどんが味わえます。市内には「cafe秋風舎」のような落ち着いた雰囲気のカフェも点在しており、サイクリングの合間にこだわりのコーヒーやスイーツで一息つくことができます。小高区にある「小高交流センター」内の食堂も、リーズナブルで温かい食事がとれるスポットとして人気です。
いわき市のメヒカリとスイーツ
いわき市の名物といえば、深海魚の「メヒカリ」です。メヒカリとは、大きな目が特徴的な深海魚で、唐揚げにすると骨まで柔らかく、淡白ながらも脂が乗った味わいは絶品です。小名浜や湯本温泉の飲食店で提供されています。いわき湯本温泉周辺には「ゼリーのイエ」のような有名店やおしゃれなカフェも多く、甘いものでエネルギーチャージをする「スイーツライド」も楽しめます。
サイクリストにおすすめの宿泊施設
長距離を移動するサイクリング旅において、宿泊場所の選定は旅の質を左右します。浜通りエリアでは、「サイクルオアシス」制度の普及に伴い、自転車を客室に持ち込めたり、専用の保管場所を提供してくれたりするサイクリストフレンドリーな宿が増加しています。
いわきエリアの宿泊拠点
ホテルB4TいわきはJRいわき駅に直結しており、サイクルトレイン利用者にとって最強の立地を誇ります。カプセルタイプ(キャビン)と個室タイプがあり、自転車の持ち込みが可能となっています。駅ビル内で完結するため、食事や買い物にも困りません。
Ryokanこいとは、いわき湯本温泉にある老舗旅館です。若旦那がサイクリストへの理解が深く、非常にフレンドリーな対応で知られています。自転車を館内の安全な場所に保管できるほか、工具の貸し出しも行っています。源泉掛け流しの硫黄泉は、疲れた筋肉を癒すのに最適です。
相双エリアの宿泊拠点
Jヴィレッジホテルは、楢葉町にあるJヴィレッジ内の宿泊施設です。アスリート向けの施設であるため、栄養バランスの取れた食事や、広々とした大浴場が魅力です。自転車の保管についても柔軟に対応しており、広大な敷地内での散策も楽しめます。
ホテルグラード新地は、新地駅の目の前に位置する新しいホテルです。客室への自転車持ち込みが可能なプランがあり、メンテナンス用の工具貸し出しも行っています。併設の温浴施設「つるしの湯」を利用できるのも大きなメリットとなっています。
レンタサイクルと乗り捨ての現状
自前の自転車を持ち込まない場合、レンタサイクルの利用が選択肢に入ります。浜通り全域をカバーする完全なワンウェイ(乗り捨て)システムは発展途上ですが、特定エリア間での乗り捨て実験が行われている場合があります。双葉駅とF-BICC間では、アプリを使ったシェアサイクルが稼働しており、駅から施設への移動に便利です。
道の駅なみえでは、最新のE-Bike(電動アシストスポーツ自転車)のレンタルを行っています。坂道の多い山側ルートや、長距離の遺構巡りにはE-Bikeのパワーが頼りになります。いわきエリアでは「いわき・ら・ら・ミュウ」や「いわき新舞子ハイツ」などで、クロスバイクやロードバイクのレンタルが行われており、手ぶらで訪れて七浜海道の一部区間だけを楽しむというスタイルも可能です。
サイクリング中の荷物は最小限にするのが鉄則です。いわき駅、原ノ町駅、双葉駅などの主要駅にはコインロッカーが設置されています。宿泊施設間で荷物を配送してくれるサービスや、コンビニからの宅配便を活用し、着替えや不要な荷物を次の宿泊先や自宅へ送ってしまう「手ぶらサイクリング」がおすすめです。特にサイクルトレインを利用する場合、駅構内での押し歩き時に大きな荷物があると非常に不便になります。
風を味方につけるルート設定
浜通りを安全かつ快適に走るためには、この地域特有の気象条件を理解しておく必要があります。浜通りのサイクリングにおいて、最も警戒すべきは「風」です。
冬から春先(11月から4月頃)の時期は、北西や西からの季節風が強く吹きます。いわゆる「空っ風」です。このため、南から北(いわきから相馬方面)へ向かうと、強烈な向かい風や横風にさらされ、体力を激しく消耗します。逆に、北から南(新地・相馬からいわき方面)へ向かうルートをとれば、背中から風を受ける「追い風」となり、驚くほど快適にスピードに乗ることができます。冬場に走るなら「南下ルート」が絶対のセオリーです。
夏から秋にかけては比較的穏やかな南東の風(海風)が吹くことが多く、どちら向きでも楽しめますが、台風シーズンなどは予報をこまめにチェックする必要があります。
必携装備と服装のポイント
浜通りサイクリングには、適切な装備が欠かせません。
ウインドブレーカーは必携です。海沿いのルートは遮るものがなく、海風に直接さらされます。夏場であっても、休憩時や夕方の冷え込みに備えて、薄手のウインドブレーカーやジレを携行することは必須です。
パンク修理キットも重要です。いわき七浜海道などの整備された道はきれいですが、国道や県道の路肩には小石やガラス片が落ちていることもあります。市街地を離れると自転車店が数十キロないエリアもあるため、予備のチューブ、タイヤレバー、携帯ポンプ(またはCO2ボンベ)は必ず持ち歩き、自分で修理できるスキルを身につけておくか、仲間と走るようにしましょう。
補給食と水分の準備も大切です。双葉郡の帰還困難区域周辺や、山間部(阿武隈高地エリア)では、コンビニや自販機が極端に少ない区間があります。ハンガーノック(低血糖)や脱水を防ぐため、ボトルは2本用意し、補給食(エナジージェルや羊羹など)をジャージのポケットに常備してください。
緊急時の対応とサイクルレスキュー
万が一のトラブルに備え、サイクルレスキューに対応している店舗やタクシー会社の連絡先を控えておきましょう。浜通りでは、サイクルオアシスとして工具を貸してくれる施設が増えていますが、自走不能になった場合はタクシーや鉄道での退避が必要です。
ここで役立つのがサイクルトレインです。パンクして修理不能になった場合でも、最寄りの駅まで押していけば、そのまま電車に乗って市街地へ戻ることができます。この安心感こそが、浜通りサイクリングの最大の強みと言えます。全18駅で乗り降り可能というシステムは、単なる移動手段を超えた「保険」としての価値も持っています。
ペダルを漕ぎ、記憶を刻む旅へ
ふくしま浜通りのサイクリングは、単なるレジャーの枠を超えた体験を提供してくれます。美しく整備された防潮堤の上を走りながら感じる潮風の心地よさ、震災遺構を前にして湧き上がる言葉にならない感情、そして新しく生まれた施設で出会う復興に懸ける人々の情熱と笑顔があります。
これらは、車窓から眺めるだけでは決して得られない、その場の空気を肌で感じ、自らの身体を使って移動した者だけが得られる「実感」です。2025年の常磐線サイクルトレインの実証実験は、この特別な体験への扉を大きく開け放ちました。これまで距離やアクセスの問題で二の足を踏んでいたサイクリストも、鉄道という強力なパートナーを得ることで、体力やスケジュールに合わせて自由に旅を設計できるようになりました。
自転車は、周囲の風景と一体になれる乗り物です。被災地の「過去」を知り、「現在」を見つめ、「未来」を想う。そんな世界でここにしかないホープツーリズムの旅路へ、愛車と共に常磐線に乗り込み、ふくしま浜通りへ出かけてみてはいかがでしょうか。そこには、人生観を少しだけ変えるかもしれない、忘れられない景色が待っています。









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