錦秋湖は、岩手県西和賀町にある人造湖で、1964年に完成した湯田ダムのせき止めによって生まれました。堤高89.5メートルの重力式アーチダムが谷を塞ぎ、周囲が紅葉に染まる秋には錦を織りなすような景観になることからこの名がついています。西和賀町にはこの湖畔を含む全7コースの「にしわがサイクリングマップ」が整備されており、走ったあとには十割そばや湯田ダムカレー、きのこ丼といった土地に根ざしたグルメを味わえます。JR北上線ほっとゆだ駅を起点・終点に距離の異なるコースが揃っているため、初めての旅行者から健脚派まで自分に合ったペースで湖と町を巡ることができます。この先では、コースごとの距離や特徴、道中で立ち寄りたい食事処、アクセスや温泉の情報を順にまとめていきます。

西和賀町は北上市の西隣に広がる岩手屈指の豪雪地帯
西和賀町は、岩手県和賀郡に属し、北上市の西隣から秋田県横手市・湯沢市との境まで広がる山あいの町です。町域の大部分を奥羽山脈の山地が占めており、冬には数メートル規模の積雪を記録する日本屈指の豪雪地帯として知られています。厳しい冬の環境は、春から秋にかけての豊かな山の恵みももたらしており、山菜やきのこ、そばの産地としても評価されてきました。
町内には湯本温泉、湯川温泉、巣郷温泉、湯田薬師温泉からなる「湯田温泉郷」が点在し、古くから湯治場として親しまれてきました。明治の俳人・正岡子規が投宿したと伝わる湯本温泉をはじめ、各温泉地には異なる泉質と趣があり、サイクリングやアウトドアで汗をかいたあとに疲れを癒せる環境が整っています。こうした自然と温泉、食の資源を生かし、西和賀町は近年「にしわが旅」として観光振興に力を入れており、サイクリングを軸にした周遊観光の仕組みづくりを進めています。
錦秋湖は春に水没林、夏に大滝、秋に紅葉と季節ごとに違う顔を見せる
錦秋湖は、西和賀町を代表する景勝地で、季節ごとにまったく異なる表情を見せてくれます。
春は雪解け水が流れ込み湖の水位が上がることで、湖畔に立つ木々が水面から顔を出す水没林と呼ばれる風景が現れます。新緑と水面が織りなすコントラストは、この時期ならではの景観として写真愛好家からも人気を集めています。
夏にかけては水位が徐々に下がっていき、7月から10月上旬にかけては貯砂ダムに堆積した土砂が姿を現し、「錦秋湖大滝」と呼ばれる滝が出現します。この時期は滝の内側を歩くことができる珍しい体験ができ、子どもから高齢者まで幅広い層がウォーキングを楽しんでいます。夜間にはライトアップが行われることもあり、日本夜景遺産にも認定されているため、昼夜を問わず楽しめるスポットです。
そして10月上旬から10月下旬にかけてが、錦秋湖最大の見頃となる紅葉シーズンです。周囲の山肌がカエデやブナなどの広葉樹で赤や黄色に染まり、その色彩が湖面に映り込みます。国道107号線やJR北上線の車窓からも紅葉を楽しめますが、サイクリングで湖畔をゆっくり巡れば、車では気づけない小さな景色の変化まで味わえるでしょう。
にしわがサイクリングマップは全7コースでレイクパープルラインが錦秋湖畔4.7kmの最短ルート
にしわがサイクリングマップは、西和賀町観光協会が中心となって整備したコース群で、JR北上線ほっとゆだ駅を起点・終点とする全7コースで構成されています。それぞれ方角と色にちなんだ愛称がつけられており、距離や難易度、見どころが異なるため、体力やその日の目的に応じて選べます。
| コース名 | 距離 | 特徴 |
|---|---|---|
| ノースオレンジライン | 片道31.7km | 町内で最も距離の長い健脚向けの本格コース |
| ウェストブルーライン | 片道9.1km | 初心者やファミリーでも挑戦しやすいコース |
| イーストグリーンライン | 片道10.7km | 里山の風景や集落を通る東方向のコース |
| センターレッドライン | 12.2km | ほっとゆだ駅周辺の施設を巡りやすい中心部コース |
| レイクパープルライン | 4.7km | 錦秋湖畔を走る最短コース |
| フローティングアイランドライン | 20.3km | 湖や川沿いの変化に富んだ地形を走る中距離コース |
| チャレンジゴールドライン | 20.1km | アップダウンが続く健脚向けのコース |
このなかでレイクパープルラインは距離が短いため、時間のない旅行者や自転車初心者でも気軽に錦秋湖の景観を楽しめる、最有力の候補と言えます。複数のコースを組み合わせて周遊することも可能で、湖の景観を重視するならレイクパープルラインを軸に、時間に余裕があればフローティングアイランドラインやノースオレンジラインへと足を延ばし、湖と山あいの集落、両方の景色を楽しむプランがおすすめです。
サイクルステーション10カ所とほっとゆだ駅前のレンタサイクル
西和賀町では、サイクリストが安心して長距離を走れるよう、町内の観光施設や民間施設と連携した「サイクルステーション」を設置しています。町の3大サイクリングルート沿線の合計10カ所に設けられており、のぼり旗が目印です。サイクルラックの利用や空気入れポンプの貸し出しが受けられ、休憩ポイントとして活用できます。長距離コースに挑戦する場合は、事前に位置を確認しておくと走行計画を立てやすくなります。
自転車を持参しない旅行者には、レンタサイクルサービスも用意されています。拠点はJRほっとゆだ駅の向かいにある「湯夢プラザ」で、西和賀町観光協会が運営しています。クロスバイクが3台、大人用のシティサイクルが5台、子供用自転車が3台用意されており、家族連れでも利用しやすい体制です。料金の目安は、シティサイクルが4時間300円、1日利用で500円程度、電動アシスト付きのシティサイクルは4時間750円からとなっています。坂道の多いコースに挑戦する場合、体力に応じて電動アシスト車を選ぶのも一つの手でしょう。詳細な料金や貸出可能台数、当日の空き状況は変動する可能性があるため、訪問前に西和賀町観光協会へ直接問い合わせることをおすすめします。
起点のほっとゆだ駅は温泉を併設する全国でも珍しい駅
にしわがサイクリングマップの全コースの起点・終点となっているJR北上線ほっとゆだ駅は、温泉施設を併設した駅として全国的にも珍しい存在です。電車の待ち時間にひと風呂浴びられるユニークな駅で、サイクリングの前後に汗を流すのにも向いたロケーションと言えます。駅に隣接する湯夢プラザには観光案内所やお土産物店、レストランも入っており、サイクリングの計画を立てる際の情報収集拠点としても機能しています。
西和賀町へは北上市から車で50分、盛岡から鉄道で北上線に乗り換え
西和賀町へは、車と鉄道のどちらでもアクセスできます。
車を利用する場合、盛岡市内からは国道46号線から県道1号線を経由して約1時間15分が目安です。北上市内からは国道107号線を経由して約50分でアクセスできます。東北自動車道の北上江釣子インターチェンジから向かうルートが一般的で、比較的わかりやすい道のりです。
鉄道を利用する場合は、JR東北新幹線・東北本線の北上駅でJR北上線に乗り換え、ほっとゆだ駅まで約45分から50分かかります。北上線は本数が多くないため、事前に時刻表を確認しておいたほうがよいでしょう。盛岡駅西口25番乗り場からは西和賀町民バス山伏線も運行しており、月・金・土・日曜日にほっとゆだ駅前まで乗り入れていますが、所要時間は約2時間10分とやや長めです。
輪行でサイクリングを楽しみたい場合は、北上線とほっとゆだ駅を組み合わせるルートが最も現実的で、駅を起点に町内各コースへとアクセスしやすくなります。
西和賀そばは十割にこだわる店が多くほっとゆだ駅前のざるそばが人気
西和賀町のグルメを語るうえで欠かせないのが「西和賀そば」です。町内で栽培されたそば粉100パーセントを使った十割そばにこだわる店が多く、なかでもほっとゆだ駅前の湯夢プラザ内にあるレストランは、観光の合流地点としても利用しやすい立地にあります。営業時間はおおむね11時から16時30分(ラストオーダー16時)で、看板メニューの「ざるそば」のほか、天ぷらや丼ものといった郷土色豊かなメニューも提供されています。サイクリングの合間に立ち寄り、地元産のそばで小腹を満たすのにぴったりのスポットです。
道の駅ほっと西和賀の湯田ダムカレーは1日20食限定
国道107号線沿いにある道の駅「ほっと西和賀」も、サイクリング途中の休憩や食事に人気のスポットです。地元食材を使った丼もの、そば、うどんなどのメニューが揃っており、なかでも人気を集めているのが1日20食限定で提供される「湯田ダムカレー」です。緑色のカレーが錦秋湖の湖水を、盛り付けられたご飯やルーの形状が湯田ダムの堤体を表しているユニークな一品で、ダムマニアや観光客のあいだで話題になっています。数量限定のため、訪れる際は早めの時間帯を狙うのがおすすめです。
きのこ丼は湯田産の舞茸やなめこを卵でとじた一品
西和賀町は積雪の多い気候と豊かな森林資源を背景に、山菜やきのこの名産地としても知られています。湯田エリアには、地場の山のきのこにこだわった店があり、看板メニューの「きのこ丼」は舞茸、なめこ、ならたけ、あみたけといった湯田産のきのこを卵でとじた一品として親しまれています。旬の時期に訪れれば、採れたてに近いきのこの風味を存分に楽しめるでしょう。
西わらびは2026年1月に山菜として全国初のGI登録を受けた
西和賀町の山菜の中でも特筆すべき存在が「西わらび」です。肉厚で柔らかく、独特のぬめりを持つことで知られ、隣接する北上エリアの住民からも古くから愛されてきた特産品です。この西わらびは、2026年1月に国の地理的表示(GI)保護制度に登録されました。山菜としては全国で初めてのGI登録で、西和賀町の山菜がいかに高く評価されているかがわかります。町内の「つきざわワラビ園」などでは、5月中旬から6月下旬にかけて山菜の水煮加工品やジャム、貴重なわらび粉なども購入できます。
さらに、西和賀町の冬の気候が生み出した伝統食に「雪納豆」があります。豪雪地帯ならではの気温と湿度を利用してつくられる納豆で、現在ではこの製法を受け継ぐ人が非常に少なくなっており、地元でもほとんど流通していない幻の味です。現時点で商業的な販売は行われていないとされているため、もし出会う機会があれば貴重な体験になるはずです。
湯田温泉郷でサイクリングの汗を流す
サイクリングで体を動かしたあとは、西和賀町自慢の温泉でゆっくり疲れを癒したくなります。西和賀町には湯本・湯川・巣郷・湯田薬師といった温泉地からなる「湯田温泉郷」が広がっており、それぞれ異なる魅力を持っています。
| 温泉地 | 特徴 |
|---|---|
| 湯本温泉 | 明治の俳人・正岡子規が投宿したという逸話が残る歴史ある温泉地 |
| 巣郷温泉 | 国道107号線沿い、岩手と秋田の県境近くの高台にあり眺望がよい |
| 湯川温泉 | 湯田温泉郷を構成する温泉地の一つ |
| 湯田薬師温泉 | 湯田温泉郷を構成する温泉地の一つ |
巣郷温泉は交通の便がよいだけでなく、サイクリングの途中で立ち寄りやすい立地も魅力の一つです。また、JRほっとゆだ駅自体が温泉施設を併設しているため、電車待ちのわずかな時間でも気軽に立ち寄り湯を楽しめます。サイクリングの拠点であると同時に、旅の締めくくりに立ち寄れる温泉スポットとしても優秀な存在です。
錦秋湖サイクリングとグルメを1日で満喫するモデルコース
ここまでの情報をもとに、初めて西和賀町を訪れる方向けに、1日で楽しめるモデルプランを紹介します。
まず午前中、ほっとゆだ駅前の湯夢プラザでレンタサイクルを借り、観光案内所で最新のコース情報や道路状況を確認します。準備が整ったら、まずは距離の短いレイクパープルライン(4.7km)で錦秋湖の湖畔を走り、湖の景観を堪能します。紅葉シーズンであれば、この時点で十分な絶景が楽しめるはずです。
昼前後には湯夢プラザや道の駅ほっと西和賀に立ち寄り、西和賀そばや湯田ダムカレー、きのこ丼といった名物グルメで腹ごしらえをします。数量限定メニューを狙う場合は、午前中のうちに訪問しておくと安心でしょう。
午後は体力と時間に応じて、フローティングアイランドラインやセンターレッドラインなど、少し距離のあるコースに挑戦し、里山の風景や集落の雰囲気を楽しみます。道中に点在するサイクルステーションを休憩ポイントとして活用しながら、無理のないペースで走るのがポイントです。
夕方、走り終えたら湯田温泉郷や、ほっとゆだ駅併設の温泉で汗を流し、旅の疲れをじっくり癒します。時間に余裕があれば、つきざわワラビ園などで西わらびをはじめとしたお土産を購入し、旅の締めくくりとするのもよいでしょう。
錦秋湖マラソンと湖水まつりは例年5月最終週末に開催される
錦秋湖周辺は、サイクリングだけでなくランニングやウォーターアクティビティのイベントも盛んなエリアです。
代表的なものが、昭和56年から続く歴史ある大会「河北新報錦秋湖マラソン」です。満水の錦秋湖が新緑に染まる5月最終日曜日に毎年開催されており、2026年は5月31日に、西和賀町役場湯田庁舎前をスタート・フィニッシュ地点とする西和賀町川尻から太田までのコースで実施されました。種目は公益財団法人日本陸上競技連盟公認の30kmコースのほか、ハーフマラソン、10kmが設定されており、全国から1500人近いランナーが集まりました。30kmとハーフは午前9時、10kmは午前9時5分にスタートしています。このコースは主要地方道盛岡横手線と国道107号の一部を通っており、サイクリングコースと重なる区間も多くあります。錦秋湖の湖畔を新緑の時期に走るという点で、サイクリングとランニングの双方に共通する魅力を持つエリアだと言えるでしょう。
マラソン大会の前日にあたる2026年5月30日には、「錦秋湖湖水まつり」が川尻湖畔公園で開催されました。日中は正午過ぎから事前予約制のSUP体験やカヌー体験が行われたほか、湖上遊覧も午後0時30分から午後5時まで楽しめました。夕方以降は湯田子ども太鼓の公演や、地元の伝統芸能である湯本鬼剣舞の演舞が披露され、午後7時45分からは花火が打ち上げられました。錦秋湖の湖面に花火が映り込む様子は、湖水まつりならではの見どころです。サイクリングで湖畔を巡った旅の締めくくりとして、季節のイベントに合わせて訪問時期を調整するのもおすすめです。
安ケ沢地区のカタクリ群生と白木峠道もサイクリングの合間に立ち寄れる
錦秋湖以外にも、西和賀町にはサイクリングコースの道中で立ち寄りたい自然の見どころが点在しています。
町内の安ケ沢地区は、春になるとカタクリの群生地として知られるエリアです。4月下旬から5月上旬にかけては「カタクリまつり」が開催され、淡い紫色の花を咲かせるカタクリのほか、ショウジョウバカマやエンレイソウといった春の山野草も見頃を迎えます。湿地一面が花で彩られる光景は、雪深い西和賀町にようやく訪れる春を感じさせてくれます。ウェストブルーラインやイーストグリーンラインなど、里山を通るコースと組み合わせて訪れるのもよいかもしれません。
旧湯田町と秋田県横手市(旧山内村)を結ぶ古道「白木峠道」も見どころの一つです。現在はハイキングコースとして整備されており、遊歩道の周辺には椿や水芭蕉の群生が見られるほか、雪国ならではのユキツバキも観察できます。サイクリングだけでなく徒歩でも西和賀町の自然を楽しみたい場合は、こうした散策スポットへの立ち寄りもあわせて検討したいところです。
サイクリングのベストシーズンは初夏の水没林と10月の紅葉
西和賀町は山あいの地形が多く、コースによっては急な上り坂やアップダウンが続く区間もあります。特にノースオレンジラインやチャレンジゴールドラインのような距離の長いコース、坂の多いコースに挑戦する場合は、体力に自信のない方は電動アシスト付きレンタサイクルの利用を検討したほうが安心です。
また、西和賀町は豪雪地帯であるため、積雪期のサイクリングは基本的に難しくなります。サイクリングを楽しむベストシーズンは、雪解けが進む春から、紅葉が美しい秋にかけてです。特に水没林が見られる初夏や、紅葉が見頃を迎える10月上旬から下旬は、景観の面でも最もおすすめの時期と言えます。
さらに、山間部を走るコースでは携帯電話の電波が届きにくいエリアや、飲食店・コンビニエンスストアが少ない区間もあるため、水分補給用の飲料や補給食は事前に準備しておくと安心です。サイクルステーションの位置や、湯夢プラザ、道の駅ほっと西和賀といった拠点施設の営業時間もあらかじめ確認しておくと、当日のプランがスムーズに進むでしょう。
西和賀町の錦秋湖は、春の水没林、夏の貯砂ダムに現れる大滝、秋の紅葉と、季節ごとに異なる表情を見せる岩手県屈指の景勝地です。この湖を中心に整備されたにしわがサイクリングマップの全7コースは、初心者向けの短距離コースから健脚向けの本格コースまで幅広く揃っており、レンタサイクルやサイクルステーションといったサポート体制も整っているため、経験を問わず自分のペースで西和賀町の自然を満喫できます。走ったあとには、十割そばにこだわる西和賀そば、見た目がユニークな湯田ダムカレー、地場のきのこをふんだんに使ったきのこ丼、そして2026年に山菜として全国初のGI登録を果たした西わらびなど、豪雪地帯ならではの食文化も味わえます。仕上げに湯田温泉郷で汗を流せば、自然と運動、グルメ、温泉が一日に凝縮された旅になるでしょう。岩手県内でアクティブに、そしておいしく過ごせる旅先を探しているなら、西和賀町の錦秋湖サイクリングを候補に加えてみてはいかがでしょう。








