犀川沿いには、長野市から松本市、安曇野市にかけて、堤防や河川敷を活用したサイクリングロードが整備されています。松本市島内で梓川と奈良井川が合流したあとの流れが犀川と呼ばれ、長野市で千曲川に合流するまでの区間の堤防道路が、3つの市をつなぐ自転車ルートになっています。北アルプスの山並みを間近に感じながら走れることが、このルートの魅力です。この記事では、安曇野市の「あづみ野やまびこ自転車道」、松本市のシェアサイクルルート、長野市の千曲川・犀川サイクリングロードという3つのエリアに分けて、それぞれのコースの距離や見どころ、レンタサイクルの使い方、走る際の注意点までまとめます。初めて訪れる方でも迷わないよう、休憩スポットや道の駅の営業時間も具体的な数字で紹介します。

犀川は北アルプスの雪解け水を集めて水運や農業用水に使われてきた
犀川は長野県を流れる信濃川水系の一級河川です。犀川流域は北アルプス(飛騨山脈)の雪解け水を豊富に含んでいるため、水量が多く、流れも比較的速い川になっています。そのため古くから水運や農業用水として利用されてきた歴史があり、流域には拾ケ堰のような江戸時代からの用水路も整備されてきました。上流部は梓川と呼ばれ、槇有明・上高地方面から流れ下ってきます。松本盆地から善光寺平(長野盆地)へと北上しながら流れる犀川は、松本市、安曇野市の水を集めながら長野市へと至ります。
犀川流域のサイクリングは、大きく安曇野市内の「あづみ野やまびこ自転車道」、松本市内のシェアサイクルルート、長野市内の千曲川・犀川サイクリングロードという3つのエリアに分けて考えるとわかりやすくなります。いずれのエリアも北アルプスの景観を眺めながら走れることが共通の魅力で、河川敷特有の平坦な地形のおかげで、サイクリングを始めたばかりの人から普段からロードバイクに乗っている人まで、幅広い層が同じルートを楽しめます。
あづみ野やまびこ自転車道は安曇野市内だけで27km整備されている
安曇野市を通る「あづみ野やまびこ自転車道」は、正式名称を県道穂高松本塩尻自転車道線といい、犀川流域のサイクリングロードの中核を担っています。世界かんがい施設遺産に登録されている拾ケ堰と並走する形で作られた、自転車と歩行者専用の道です。全線の計画は安曇野市穂高から塩尻市までを結ぶものですが、現時点で完成しているのは安曇野市内の区間で、この自転車道を含めて約27kmが走行可能になっています。平坦でアップダウンがほとんどないため、サイクリング初心者や家族連れでも安心して走れます。
安曇野市が案内するコースは体力に応じて選べます。Bコースは総距離約21.6km、想定所要時間3時間で、拾ケ堰沿いを進みながら三郷地区のりんご畑の中を走り抜けます。もう一本のコースは総距離約32km、所要時間4時間で、有明山神社を目指しながら穂高山麓の観光スポットを巡ります。どちらのコースも常念岳や有明山を正面に望める区間が多く、写真を撮りながらゆっくり走るのに向いています。
拾ケ堰の桜並木は4月上旬から中旬が見頃になる
拾ケ堰は江戸時代後期に作られた、安曇野最大級の農業用水路です。日本の疏水百選にも選ばれている歴史的な水利施設で、2016年11月にタイのチェンマイで開催された国際かんがい排水委員会の会議で、世界かんがい施設遺産への登録が決まりました。堰沿いには桜並木が続いていて、雪解けが進む北アルプスを背景に、桜と芝桜が同時に咲きます。桜並木のちょうど中間地点には「拾ケ堰じてんしゃひろば」という休憩ポイントがあり、レンタル自転車の利用や小休止に使われています。
犀川白鳥湖のコハクチョウは1月に飛来数がピークになる
安曇野市内の犀川沿いには、冬季限定の観光名所として「犀川白鳥湖」と「御宝田遊水池」があります。犀川のほとりにできたダム湖である白鳥湖と隣接する遊水池の2か所には、例年10月中旬ごろからコハクチョウが飛来し始め、そのまま越冬します。3月末ごろになると、シベリアなど北方の繁殖地へ向けて約4,000kmもの距離を飛んで帰っていきます。飛来する種類はコハクチョウが圧倒的に多く、最も多くの個体を観察できるのは1月ごろとされています。4,000kmという距離を毎年往復していることを考えると、犀川白鳥湖と御宝田遊水池は、コハクチョウにとって毎年戻ってくるだけの価値がある越冬地になっていることがうかがえます。防寒対策をしっかりしたうえで訪れれば、間近で羽を休める姿を観察できます。
犀川白鳥湖・御宝田遊水池は、あづみ野やまびこ自転車道からもアクセスしやすい位置にあります。冬場のサイクリングでは防寒対策をしっかりしたうえで、白鳥観察を兼ねたライドを楽しむ人が多いようです。周辺には安曇野スイス村などレンタサイクルを提供する施設もあり、電車や車で訪れた観光客がその場で自転車を借りて周辺を回ることもできます。
松本市のシェアサイクルは30分130円、4市村で乗り継げる
松本市内では、犀川が松本盆地を北へ向かって流れる区間の島内・島立地区周辺で、河川敷や堤防道路がサイクリングに利用されています。松本市はシェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」を市内全域に展開していて、松本駅お城口広場や松本バスターミナル前をはじめ、商業施設や病院の周辺など多数のステーションがあります。料金は利用開始から30分まで130円で、それ以降は15分ごとに100円が加算され、12時間利用した場合の上限は1,800円です。これらのステーションは観光客の利用だけでなく、通勤や買い物といった地域住民の日常的な移動にも使われています。犀川沿いを走る観光目的のライドと、日常の移動とが同じ自転車で共存している点も、松本市のシェアサイクルの特徴です。
このシェアサイクルシステムは松本市だけでなく、安曇野市、塩尻市、朝日村の4市村で共通利用できます。松本市内のステーションで自転車を借り、犀川沿いを北上して安曇野市内のステーションで返却する、市境をまたいだ乗り継ぎも可能です。松本駅を起点に犀川沿いを走り、安曇野まで足を延ばすなら、この片道利用ができる仕組みを使うほうが行程を組みやすくなります。
犀川は松本市内では島内地区付近で梓川・奈良井川と合流するため、この合流点周辺は水量が増えて川幅も広がり、開放感のある河川敷の風景が広がります。堤防上のサイクリングルートからは北アルプスの稜線を望むことができ、松本市街地の喧騒から離れてゆったり走れるエリアとして知られています。
松本市の3ルートは9.2kmから30.4kmまで選べる
松本市が案内するモデルルートは、体力や走行距離の希望に応じて3種類あります。市街地を巡る「街めぐりルート」は約9.2km、ドラマや映画のロケ地を巡る「ロケ地めぐりルート」は約21.8km、北アルプスの景色を望む「絶景めぐりルート」は約30.4kmです。それぞれの距離と特徴を、下の表にまとめました。
| ルート名 | 距離 | 特徴 |
|---|---|---|
| 街めぐりルート | 約9.2km | 松本城下町の街並みを巡る |
| ロケ地めぐりルート | 約21.8km | ドラマ・映画のロケ地を巡る |
| 絶景めぐりルート | 約30.4km | 北アルプスの景色を望みながら走る |
これらのルートは松本城下町の街並みと犀川沿いの自然な景観を組み合わせて設計されていて、観光と運動を同時に楽しめる構成になっています。時間があまりない人は街めぐりルート、犀川沿いの景色をしっかり味わいたい人は絶景めぐりルートを選ぶとよいでしょう。ロケ地めぐりルートは、松本市内で撮影された作品の舞台をたどりながら走れるので、観光と地域の物語を同時に楽しめるルートになっています。
長野市の千曲川サイクリング道路は長野駅東口から13.9km
長野市では、犀川が千曲川に合流するまでの区間の堤防や河川敷が、サイクリングロードとして整備されています。長野市を中心とした北信濃エリアには、初心者が気軽に走れる平坦なサイクリングロードから、上級者向けの本格的な山岳コースまで、幅広いレベルに対応したルートが揃っています。
長野市が案内するモデルコースの一つは、長野駅東口を起点に千曲川沿いを北上し、さかき千曲川バラ公園方面まで至る約13.9kmです。このルートは千曲川の堤防上に整備された「千曲川サイクリング道路」を使うので、一級河川の堤防を利用した専用の自転車・歩行者道になっていて、車を気にせず走行できます。川面の輝きと周囲の山々の青さを感じながら走れる、フラットで気持ちのいいコースです。
犀川と千曲川が合流する落合橋付近から長野市街地にかけての河川敷は「犀川緑地」として整備されていて、地域住民の散策やジョギング、サイクリングの場になっています。この一帯からは長野市街を見下ろす旭山や、遠くにアルプス公園方面の山並みを望むことができ、四季折々の風景を楽しみながら走れます。市街地から歩いて行けるくらいすぐの場所で、これだけの山の眺めを得られる河川敷は、長野市のサイクリングの入口として使いやすい区間になっています。
長野市周辺にはこのほかにも、里山の文化と北アルプスの眺望を組み合わせた「棚田とアルプス眺望コース」や、上級者向けの「100kmロング&ヒルクライムライド」など、距離や難易度の異なる複数のモデルコースが公式に紹介されています。犀川・千曲川の河川敷ルートは、こうした本格的なロングライドコースへのアクセスルートとしても機能していて、初心者向けの入門コースから上級者向けの周遊コースまで、段階的にレベルアップしながら楽しめる環境が整っています。体力に自信のない人は、まず千曲川沿いの13.9kmのフラットなコースから走り始め、慣れてきたら棚田とアルプス眺望コースや100kmロング&ヒルクライムライドのような上級者向けコースに挑戦する、という段階的な使い方ができます。犀川・千曲川の河川敷ルートが入門編としての役割を果たしているからこそ、北信濃エリア全体のサイクリングが幅広い層に開かれているといえるでしょう。
生坂村・明科エリアは緩やかな上り下りが混じる谷筋ルートになる
安曇野市明科地区から北へ進むと、犀川は山あいの谷を刻むように流れ、東筑摩郡生坂村へと入っていきます。生坂村は犀川が村の中央を貫くように流れる、山あいの村で、特産品はぶどうです。安曇野市街地の平坦な河川敷とは違い、明科から生坂村にかけての区間は谷筋を通るため、緩やかな上り下りが混じるルートになります。
このエリアでは犀川の流れに沿って両岸に道が通っています。生坂村側へ進んだあと明科方面へ戻る際には、塩尻トンネルや池沢トンネルが通る国道とは別に、交通量の少ない県道256号(下生野明科線)を使うと走りやすいとされています。往路と復路で異なる岸を走ったり、睦橋など犀川に架かる橋を使って対岸に渡ったりすれば、変化のあるループルートを組むこともできます。交通量の少ない県道を選ぶ理由は単純です。国道のトンネル区間は自動車の通行が多く、自転車で走るには気を使う場面が増えるためです。犀川沿いの静かな県道を選べば、対岸の景色を眺めながら落ち着いてペダルを踏み続けられます。
JR大糸線の明科駅前にはシェアサイクルのステーションがあり、電動アシスト自転車を借りて犀川沿いを走ることができます。明科駅を起点にすれば、安曇野市豊科方面の平坦な河川敷ルートと、生坂村方面の谷筋ルートの両方にアクセスしやすく、体力や興味に応じてルートを選べる拠点になります。
かつて犀川では、明科から生坂村にかけての区間で「犀川ライン下り」と呼ばれる川下り観光が行われていた時期があり、渓谷のような地形と清流を活かした観光資源として知られていました。現在は自転車で同じ渓谷沿いを走ることで、川下りのルートをなぞるように景観を楽しめます。安曇野の平坦な田園風景から一転して、山と川が織りなす渓谷の景観を味わえるこのエリアは、犀川サイクリングロードの中でも走りごたえのあるルートといえるでしょう。
犀川沿いの休憩スポットは道の駅いくさかの郷とほりがねの里の営業時間で選ぶ
生坂村内の休憩スポットには「道の駅いくさかの郷」があります。営業時間は9時から17時までで、農産物直売所やハンガリー特産品を扱うコーナー、郷土食を提供する食堂「かあさん家」が併設されています。灰焼きおやきや惣菜、麺類も購入できます。直売所は9時から17時、食事処は10時から14時の営業です。鉄道・バスでアクセスする場合はJR明科駅からタクシーか生坂村営バスを使いますが、サイクリングなら犀川沿いのルートを走って直接立ち寄れます。生坂村ならではの山あいの景色とぶどうをはじめとした特産品を楽しめる、走行中の貴重な休憩ポイントです。
安曇野エリアで立ち寄りスポットとして人気なのが「道の駅アルプス安曇野ほりがねの里」です。地域の農家が育てた農産物や手作りの加工品が並び、目玉になっているのは物産センター「ほりがね物産センター」と食堂「かあさんのおむすびの店」です。営業時間は6月から9月が7時から17時まで、10月から5月は8時30分から17時までとなっています。安曇野市街地は比較的アップダウンが少なく平坦な地形が多いため、自然を肌で感じながら移動できる自転車の旅に向いています。JR穂高駅前ではレンタサイクルやシェアサイクルの利用も可能です。犀川沿いのルートを走る途中でこの道の駅に立ち寄り、地元産の果物や野菜、軽食を楽しむプランは定番の楽しみ方の一つです。
犀川沿いのレンタサイクルは会員登録すれば片道利用もできる
犀川流域のサイクリングロードを利用する際、必ずしも自分の自転車を持参する必要はありません。松本市と安曇野市、塩尻市、朝日村の4市村ではシェアサイクル「HELLO CYCLING」が共通で使えて、スマートフォンのアプリから会員登録をすれば、市内各所のステーションで自由に借りて、別のステーションで返却できます。この仕組みを使えば、松本駅から犀川沿いを北上し、安曇野市内のステーションで乗り捨てるといった、片道型のサイクリングプランも実現できます。
安曇野市周辺ではJR穂高駅前のレンタサイクル店や、犀川白鳥湖近くの安曇野スイス村など、電動アシスト自転車を含めたレンタサイクルサービスを提供する施設も点在しています。長野市側でも観光案内所や一部の宿泊施設でレンタサイクルの取り扱いがあります。事前に公式観光サイトなどで最新の営業状況や料金を確認しておくと安心です。
犀川サイクリングの注意点は増水時の通行止めと北アルプスからの風
犀川流域のサイクリングロードは堤防や河川敷を利用した専用道が多く、自動車の通行がほとんどないため、初心者や家族連れでも走りやすい環境になっています。ただし河川敷特有の注意点もあります。河川敷は増水時に通行止めになることがあるため、大雨や台風のあとは最新の通行状況を自治体や河川管理事務所の情報で確認しておいたほうがいいでしょう。
犀川・千曲川流域は北アルプスからの吹き下ろしの風が強い日もあるため、防風対策や体感温度の変化に応じた服装の準備が欠かせません。冬季は犀川白鳥湖周辺の気温が下がるので、防寒具をしっかり準備したうえでのライドが必要です。夏場は日差しが強く遮るものが少ない区間もあるので、日焼け対策と十分な水分補給を忘れないようにしたいところです。
犀川サイクリングのベストシーズンは桜が咲く4月と実りの9月から10月
拾ケ堰の桜並木が見頃を迎える4月上旬から中旬にかけての春と、稲穂やりんご畑が色づく9月から10月の秋は、犀川沿いのサイクリングで特に人気の高い時期です。冬季は犀川白鳥湖のコハクチョウ観察を目的にしたライドが楽しめますが、路面の凍結には十分な注意が必要です。
犀川沿いのルートは、松本と安曇野、長野という3つの異なる魅力を持つエリアを一本の水系でつないでいます。城下町の風情を残す松本、田園風景と北アルプスの眺望が広がる安曇野、善光寺門前町として栄えた長野と、それぞれの地域性を感じながら一本の川沿いを走り継いでいけることが、このルートの魅力です。時間が限られているなら市街地に近い平坦な区間だけを楽々と走るのもよいですし、犀川ライン下りの跡をたどる生坂村までのルートを選べば、渓谷らしい景観をしっかり味わえます。日帰りで一部区間を走るコースから、複数日にわたって全区間を走破するロングライドプランまで、体力や興味に応じて自由に組み立てられる懐の深さが、犀川サイクリングロードが多くのサイクリストに選ばれている理由になっています。松本駅から安曇野を経て生坂村まで足を延ばせば、城下町から田園風景、渓谷まで、犀川一本で長野県中部の風景の違いを走りながら体感できます。








