宮城・薬萊山と鳴瀬川を結ぶ里山サイクリングコースの全貌

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宮城県の内陸部、加美町と美里町にまたがるエリアには、薬萊山の裾野を巡るサイクリングコースと、鳴瀬川の堤防に沿って続くサイクリングロードという、二つの表情を持つ里山コースが整備されています。加美町側は「ジャパンエコトラック 鳴瀬川・薬萊山」として認定され、初心者はのどかな田園地帯を、経験者は未舗装路を含む本格的なルートを楽しめます。一方、美里町の鳴瀬川サイクリングロードは全長約6.8キロメートルの平坦な堤防道で、子ども連れのファミリーでも安心して走れる作りです。標高553メートルの薬萊山は「加美富士」と呼ばれる端正な山容で知られ、山麓にはやくらいガーデンや温泉施設も点在しています。この記事では、薬萊山周辺のサイクリングコースと鳴瀬川サイクリングロードそれぞれの特徴、周辺のみどころ、走る前に押さえておきたい注意点までをまとめて紹介します。

目次

薬萊山は標高553メートルの「加美富士」で山麓に周遊コースが延びる

薬萊山は、宮城県加美郡加美町にそびえる標高553メートルの山です。整った三角形の山容から「加美富士」の愛称で親しまれ、加美町のどこからでもその姿を見つけられます。標高こそ553メートルとそれほど高くはありませんが、独立峰に近い形をしているため裾野からの見晴らしがよく、山頂からは船形連峰や奥羽山脈、晴れた日には太平洋まで望めるといわれています。

登山道は片道約1.3キロメートルの表コースが整備されており、コースタイムの目安は約1時間です。春は桜並木、夏は森林浴、秋は紅葉と、季節ごとに違う表情を見せてくれます。山頂から北コースを使って下山すれば、薬萊山をぐるりと一周する形になり、この周遊性の高さがそのままサイクリングコースの設計にも生かされています。標高200メートルから300メートル付近には、舗装された里道と未舗装路を組み合わせた自転車用の周遊ルートが設けられており、初心者はロードバイクでのんびり田園風景を楽しみ、経験者はマウンテンバイクで未舗装の下りに挑む、というレベル別の楽しみ方ができます。

706段の階段を含む山頂ルートは40分から45分が目安

登山口はやくらいファミリースキー場側の山麓に設けられており、山頂までは706段の階段を含む約1.5キロメートルの道のりを、40分から45分ほどかけて登るのが一般的なコースタイムです。薬萊山という名前には、735年に地方で疫病が流行した際、山頂に薬師如来を祀って病の平癒を願ったという伝承が伝わっており、「薬萊」という響きには古くからの信仰の歴史が込められています。現在、薬萊山は船形連峰県立自然公園の一部にも指定され、自然景観が公的に保護されているエリアです。

山麓のやくらいファミリースキー場は、初級コースが全体の8割、中級コースが2割を占める構成で、営業期間は例年12月中旬から翌年3月上旬までとなっています。雪解け後はこのゲレンデ周辺がサイクリングやトレッキングの拠点に切り替わり、夏には「やくらい高原マラソン大会」も開催されるなど、季節ごとに異なるアクティビティで山麓がにぎわいます。

ジャパンエコトラック「鳴瀬川・薬萊山」は加美町を人力移動の旅エリアに認定

ジャパンエコトラックとは、トレッキングやカヤック、自転車といった人力での移動を通じて、各地の自然や歴史、人との交流を楽しむ旅のスタイルを提案する取り組みです。全国各地の自然豊かなエリアがルートとして認定されており、宮城県加美町の「鳴瀬川・薬萊山」もそのひとつに数えられています。

加美町はこの認定エリアとして、薬萊山を中心にトレッキング、サイクリング、カヤック、キャンプなど、初心者でも気軽に自然と触れ合える環境づくりを進めてきました。ルートマップはA5判からA4判にリニューアルされ、立ち寄りスポット間の距離や所要時間の目安が詳しく載っています。マップは加美町の公共施設や観光施設のほか、モンベルストアでも配布されており、加美町はモンベルと「フレンドタウン」提携を結んでいます。ジャパンエコトラックの公式サイトからもデータをダウンロードできますので、走る前に手元へ用意しておくと安心です。

このルートの価値は、自然の中を走るだけでなく、里山ならではの暮らしや文化に触れられるところにあります。田園を抜ける里道、鳴瀬川のせせらぎ、薬萊山の四季の移ろい。こうした要素が重なり合って、都市部ではなかなか得がたい体験を作り出しています。

やくらいガーデンは総面積5万平方メートルの花畑でサイクリング休憩の定番

やくらいガーデンは、薬萊山のふもとに広がる東北最大級の花のテーマパークです。総面積はおよそ5万平方メートルにおよび、8つのテーマガーデンがそれぞれ季節ごとに違う花を咲かせています。春はチューリップやビオラ、菜の花、ネモフィラが見頃を迎え、夏にはひまわり畑が来場者を迎えます。秋は「ふるるの丘」やキバナコスモスが色づき、秋から冬にかけては「星あかり」というライトアップイベントも開かれます。園内にはおよそ400種類の植物が植えられ、散策路や展望スポット、カフェやショップも備わっています。

サイクリングやトレッキングで薬萊山周辺を巡る際は、やくらいガーデンを休憩や観光の拠点に組み込むプランが好まれています。花畑を眺めながらのカフェタイムは、走ったあとのご褒美にちょうどよい時間になるはずです。近隣には「やくらい薬師の湯」や「陶芸の里ゆらんど」といった温泉やふれあい施設もあり、これらの施設ではレンタサイクルを借りることができます。里山の田園風景はロードバイクでの走行に向いており、未舗装路はマウンテンバイクでの下りに向いているとされていますので、汗を流したあとは温泉でゆっくり疲れをほぐすという一日の流れを組みやすいのも、このエリアの魅力です。

走ったあとの楽しみといえば、地元グルメも見逃せません。やくらい土産センター・山の幸センターでは、薬萊山周辺で栽培されるわさびを使った料理や地元産黒豚のとんかつ、わさびを添えたローストビーフ丼、みそラーメンなど、里山の恵みを生かしたメニューがそろっています。サイクリングで消費した体力を、その土地でしか味わえない食で補うのも、地域を巡る旅ならではの楽しみといえるでしょう。

鳴瀬川カヌーレーシング競技場は宮城国体の会場になった全長500メートルコース

鳴瀬川は宮城県中北部を流れる一級河川で、加美町を含む奥羽山脈東麓の山々を水源とし、大崎平野を潤しながら太平洋の石巻湾へ注いでいます。流域には加美町、色麻町、大崎市、涌谷町、美里町、東松島市など複数の市町が含まれ、古くから稲作を中心とした農業用水として地域の暮らしを支えてきました。

加美町内にある鳴瀬川カヌーレーシング競技場は、鳴瀬川と田川の合流点に設けられた全長500メートル、カヌースプリント10レーンを備える本格的な施設です。加美町中新田B&G海洋センターと加美町役場が管理しており、コース沿いの岸は平坦に整備され、コーチが並走しながら選手に声をかけやすい環境が整っています。2001年の宮城国体、2011年の北東北インターハイカヌースプリントの会場になった実績もあります。

毎年夏には、10人漕ぎのドラゴンカヌーで競う「加美町カップドラゴンカヌー大会」もこの競技場で開かれ、全国から強豪チームが集まる恒例イベントになっています。見通しのよいコースからは薬萊山や船形連峰を眺めながらパドリングを楽しめ、ファミリーや初心者向けの体験プログラムも用意されています。サイクリングだけでなく水上のアクティビティも組み合わせられるところに、このエリアの懐の深さが表れています。

鳴瀬川サイクリングロードは美里町の堤防6.8キロを走るフラットな道

薬萊山のある加美町から鳴瀬川の下流へ目を移すと、宮城県遠田郡美里町には「鳴瀬川サイクリングロード」という、また違った表情のコースが整備されています。美里町内の鳴瀬川堤防左岸に沿って設けられたコースで、全長は約6.8キロメートルです。堤防上を走るため高低差がほとんどなく、自転車初心者や子ども連れのファミリーでも安心して走行できる点が最大の特徴です。

このサイクリングロードが整備された背景には、1970年前後に交通事故が急増して社会問題となったことがあります。江合川と鳴瀬川の流域にまたがる1市4町が1972年に協議会を設立し、安全に自転車を楽しめる専用道の整備に着手しました。完成までにはおよそ6年の歳月がかかり、以来半世紀近くにわたって地域住民や観光客に親しまれてきた歴史あるコースといえるでしょう。

鶴頭公園の桜並木は船形山を望む写真スポット

コース沿いの見どころとしてまず挙げられるのが、春の桜の名所として知られる鶴頭公園です。堤防沿いに植えられた桜並木の向こうには、宮城県と山形県の県境にまたがる船形山を望むことができ、桜と山並みが重なる景観は多くの写真愛好家やサイクリストを引きつけています。花見シーズンには、地元住民の散策コースとしてもにぎわいます。

コースの下流側にあたる南郷地区は、世界農業遺産に認定された「大崎耕土」の南端にあたります。田植えの季節には水を張った水田が空を映し出し、夏には青々とした稲が風になびき、秋には黄金色の稲穂が一面に広がります。四季を通じて表情を変える田園風景の中をペダルを漕いで進む体験は、都市近郊のサイクリングロードではなかなか味わえないものです。

大崎耕土は2017年にFAOから世界農業遺産に認定された水田システム

鳴瀬川サイクリングロードが走る美里町を含む大崎地域は、2017年に国際連合食料農業機関から世界農業遺産に認定された「大崎耕土」のエリアにあたります。正式名称は「持続可能な水田農業を支える大崎耕土の伝統的水管理システム」で、認定されているのは大崎市、涌谷町、美里町、加美町、色麻町の1市4町にまたがる広い地域です。

大崎耕土は、江合川と鳴瀬川の流域に広がる湿地を生かし、洪水と渇水が繰り返される自然環境の中で、先人たちが水の調整に知恵を重ねながら発展させてきた大地です。水田と水路、ため池、そして屋敷林の「居久根」が一体となった伝統的な水管理システムは、湿地の生態系や地域の農文化を育みながら今も受け継がれています。

居久根とは、農家の屋敷の周囲に植えられたスギやマツ、ヒノキ、ケヤキなどの樹木群のことで、宮城県のほか岩手県、福島県、山形県の一部地域でも見られ、江戸時代中期にはすでに定着していたとされています。洪水や冬の北西風から家を守る知恵、敷地内で野菜や薬草を育てる知恵、周辺の水田と一体になって害虫の天敵を育む知恵など、先人の工夫が詰め込まれています。枯れ枝や落ち葉は燃料や堆肥としても使われ、暮らしと農業が結びついた循環の仕組みを支えてきました。サイクリングでこの地域を走っていると、水田の合間に緑の島のように点在する居久根の姿を目にすることができ、これも大崎耕土ならではの景観のひとつです。

鳴瀬川サイクリングロードや薬萊山周辺の里道を走ることは、運動やレジャーにとどまらず、世界に認められた農業システムとそれが育んできた景観を体感する機会でもあります。サイクリングを通じて、この土地の歴史や人々の暮らしに思いを馳せられるのも、このエリアの価値のひとつでしょう。

薬萊山コースと鳴瀬川ロードは体力と目的で使い分けるのが現実的

薬萊山周辺と鳴瀬川サイクリングロードは加美町・美里町という別の自治体にまたがっているため、初めて訪れる場合はどちらか一方を軸にプランを立てるのが現実的です。

薬萊山エリアを中心に楽しむ場合は、やくらいガーデンや周辺施設を拠点に、レンタサイクルを借りて里道を巡るプランが向いています。舗装路中心にゆったり田園風景を楽しむこともできますし、体力に自信があれば未舗装区間を含む周遊ルートに挑戦することもできます。走ったあとはやくらい薬師の湯で汗を流し、やくらいガーデンで季節の花を眺めながら休憩する、という一日の流れを組みやすいでしょう。

一方、鳴瀬川サイクリングロードを中心に楽しむ場合は、堤防沿いのフラットな道を生かして、桜の季節には鶴頭公園を目指す往復ルート、稲穂が実る秋には南郷地区まで足を延ばして大崎耕土の田園風景を楽しむルートが定番です。高低差がほとんどないため、普段自転車に乗り慣れていない人や、子どもと一緒のファミリーサイクリングにも向いています。

体力と時間に余裕があれば、加美町の薬萊山エリアと美里町の鳴瀬川サイクリングロードを組み合わせ、鳴瀬川流域を上流から下流まで感じるロングライドに挑戦するのもひとつの楽しみ方です。里山の緑と農村の田園風景、清流のきらめきを一日で味わえる、宮城県内陸部ならではのコースになるはずです。

項目薬萊山周遊コース鳴瀬川サイクリングロード
所在地加美町美里町
距離の目安標高200〜300メートル付近を周遊約6.8キロメートル
路面舗装路と未舗装路が混在堤防上の舗装路が中心
向いている人未舗装の下りも楽しみたい経験者初心者やファミリー層
主な見どころやくらいガーデン、温泉鶴頭公園、大崎耕土の田園風景

訪れる時期に迷ったときは、桜の咲く4月上旬から中旬にかけての鶴頭公園と薬萊山の桜並木を目当てに計画を立てる方法があります。この時期は気温も走りやすく、花見客でにぎわう鶴頭公園から静かな里道の薬萊山周辺まで、桜前線を追いかけるように移動できます。稲穂が色づく9月から10月にかけては、大崎耕土の田園風景とやくらいガーデンの秋の花を組み合わせやすく、写真を撮りながらゆっくり走りたい人に向いている季節といえるでしょう。

里山を走る前に知っておきたい注意点は野生動物と増水時の通行止め

里山や河川敷を走るサイクリングコースには、いくつか気をつけたい点があります。薬萊山周辺は自然豊かなエリアのため、季節や時間帯によっては野生動物との遭遇に備えた対策が欠かせません。特に早朝や夕方の薄暗い時間帯にひとりで走るのは避け、複数人での行動を心がけると安心です。

未舗装路を含む周遊コースを走る場合は、ロードバイクよりもマウンテンバイクやグラベルバイクなど、路面状況に合った車体を選んだほうが快適に走れます。レンタサイクルを利用する際は、事前にコースの路面状況を施設へ確認しておくとよいでしょう。

鳴瀬川サイクリングロードのような堤防道路は、河川管理用の通路を兼ねていることが多く、増水時や河川工事の際には通行止めや迂回が発生する場合があります。訪れる前には自治体の公式サイトなどで最新の通行状況を確認しておくと安心です。

田園地帯を走る区間では、農作業車両とすれ違う機会も多くあります。地域の生活道路や農道と重なる部分もあるため、農作業をしている方への配慮を忘れず、マナーを守った走行を心がけたいところです。

季節を問わず、水分補給と日差し対策は欠かせません。夏場は堤防道路や田園地帯が高温になりやすいため、こまめな休憩と水分補給を意識してください。春や秋は寒暖差が大きいので、脱ぎ着しやすい服装で体温を調節しながら走るのがおすすめです。

アクセスは東北自動車道の古川インターと大和インターが起点になる

薬萊山・やくらいガーデン方面へは、東北自動車道の古川インターチェンジや大和インターチェンジから車で移動するのが一般的です。加美町内の観光情報やジャパンエコトラックのルートマップについては、加美町の観光窓口で確認できます。

鳴瀬川サイクリングロードのある美里町へは、東北自動車道や国道346号などを利用してアクセスします。堤防沿いのコースのため駐車スペースの位置を事前に確認し、鶴頭公園周辺など拠点となるスポットから走り始めるとスムーズです。

いずれのエリアも公共交通機関でのアクセスは限られるため、車での訪問を基本に、レンタサイクルを組み合わせるプランが現実的でしょう。最新情報については、加美町や美里町の公式観光ページ、またはジャパンエコトラック公式サイトを確認することをおすすめします。

宮城の里山サイクリングは薬萊山と鳴瀬川ロードを組み合わせて楽しみたい

宮城県加美町の薬萊山と美里町の鳴瀬川サイクリングロードは、それぞれ違う魅力を持ちながら、鳴瀬川という一本の川でゆるやかにつながっています。加美富士とも呼ばれる端正な山容の薬萊山、そのふもとに広がる東北最大級の花畑やくらいガーデン、ジャパンエコトラックとして整備された周遊コース。そして下流の美里町では、半世紀近い歴史を持つ堤防沿いのサイクリングロードが、桜の名所である鶴頭公園と、世界農業遺産に認定された大崎耕土の田園風景を静かに走り抜けていきます。

都市部の喧騒を離れ、里山と清流、そして先人が築き上げてきた水田農業の風景の中をペダルを漕いで進む時間は、単なる運動やレジャーを超えた時間になるはずです。初心者はフラットな鳴瀬川サイクリングロードから、経験者は薬萊山の周遊コースにも挑戦してみるなど、体力やレベルに合わせて宮城の里山サイクリングを楽しんでみてはどうでしょうか。訪れる季節によって表情を変えるこのエリアは、何度足を運んでも新しい発見を与えてくれるでしょう。

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