兵庫県赤穂市を流れる千種川の河口から坂越の港町まで、海沿いを走れるサイクリングコースが整備されています。川沿いの静かな道と瀬戸内海の開放的な景色を一度に楽しめる点が、このルートの一番の特徴です。播州赤穂駅と坂越駅の両方でレンタサイクルを借りられるため、電車で訪れる旅行者でも手軽にサイクリングを始められます。この記事では、千種川サイクリングロードの距離やレンタサイクルの料金、赤穂海浜公園や坂越の町並みといった立ち寄りスポット、上級者向けの七曲りルートまで、赤穂・坂越エリアを自転車で巡るための情報をまとめました。海の香りと歴史ある港町の雰囲気を一緒に味わいたい人に向けて、実際に走る際の参考になる内容を紹介します。

千種川サイクリングロードは新赤穂大橋から坂越橋まで片道30分
千種川サイクリングロードは、新赤穂大橋の西側付近を起点に、下流の坂越橋のたもとにある感潮堰(かんちょうぜき)までを結んでいます。感潮堰とは、川の水が海水と混ざる汽水域と、混ざらない淡水域を分ける堰のことです。片道の所要時間はおよそ30分で、往復しても1時間程度で走りきれます。
千種川そのものは、兵庫県宍粟市千種町西河内の江浪峠付近、標高およそ1080メートル地点を源とし、そこから南へ約68キロメートル流れて赤穂市で播磨灘に注ぐ二級水系の本流です。水質の良さから環境省の名水百選にも選ばれており、地元では「清流千種川」と呼ばれています。川の勾配が緩やかで流れも穏やかなため、サイクリングロードとして整備しやすかったという背景があります。
コースは堤防沿いに続いており、信号や交差点をほとんど気にせず走れます。道幅にも余裕があるので、家族連れや自転車に乗り慣れていない人でも安心して利用できるでしょう。春は土手の緑が眩しく、夏は川風が心地よく、秋は空気が澄んで山並みまで見渡せます。冬は木々の葉が落ちて視界が開け、川面の輝きがよく見える季節です。河口部分は赤穂の市街地に近いため、川沿いを走り終えたあとにそのまま瀬戸内海側のルートへつなげやすいのも利点です。
千種川は勾配が少なく流れが穏やかな一方で、水深が浅く流速が速い区間もあるため川底の石に苔が育ちやすく、兵庫県下でも屈指のアユ釣り場として知られています。鮎釣りは例年5月末ごろに解禁を迎え、豊富な水量から「涸れない川」とも呼ばれるほど安定した流れを保っています。サイクリングロードを走りながら、川面で釣りを楽しむ人の姿を見かけることも珍しくありません。
播州赤穂駅と坂越駅でレンタサイクルの料金が異なる
播州赤穂駅では電動アシスト付き自転車が1日800円から1000円程度、電動アシストなしのシティサイクルが1日500円程度で借りられます。窓口は駅舎2階の赤穂観光協会で、営業時間はおおむね午前9時から午後5時までです。播州赤穂駅は赤穂市の中心駅であり、赤穂城跡や赤穂海浜公園への玄関口としても機能しています。
坂越駅前のレンタサイクルはセルフ式で、料金は300円程度、大人用が10台ほど用意されています。利用時間は朝7時から夜7時までとなっており、早朝から走り始めたい人にも対応できます。播州赤穂駅で自転車を借りて千種川沿いを走り、坂越で自転車を返して電車で戻るという片道利用のプランを組むことも考えられます。ただし乗り捨ての可否や具体的な運用は、赤穂観光協会や坂越駅前の窓口に事前に確認しておいたほうが安心です。
播州赤穂駅と坂越駅の間の道のりについては、情報源によって数値にばらつきがあります。実際に走行する際は、地図アプリで最新のルートと距離を確認しながら計画を立てるのがおすすめです。
赤穂海浜公園から坂越へ抜ける海沿いモデルコース
赤穂・坂越エリアを自転車で回る定番の流れは、播州赤穂駅からレンタサイクルで千種川沿いを走り、河口から赤穂海浜公園を経由して坂越へ向かうというものです。往復でも半日程度で楽しめるボリューム感なので、初心者から経験者まで無理なく組み立てられます。
まず市街地を抜けて千種川の堤防沿いに入り、新赤穂大橋付近から河口方向へサイクリングロードを走ります。河口に到達したら、そのまま海沿いのルートへ接続します。千種川の河口周辺から赤穂海浜公園にかけては瀬戸内海を間近に望むエリアが広がっており、公園でひと休みしたあとは海岸線沿いを東へ進んで坂越の集落を目指します。坂越に着いたら自転車を停めて、江戸時代からの町並みを歩いて回るのがこのコースの醍醐味です。
川、海、港町という三つの異なる風景を、無理のない移動距離でつなげられる点が、このモデルコースの魅力です。
赤穂海浜公園の太陽の丘から播磨灘を360度見渡せる
兵庫県立赤穂海浜公園は、瀬戸内海国立公園に指定された赤穂御崎の西側、播磨灘に面したかつての塩田跡地を活用して整備された、面積71.7ヘクタールの公園です。園内の「太陽の丘」に登れば、赤穂の市街地から山並み、播磨灘までを360度見渡せます。サイクリングの途中にひと息つく休憩地点として、立ち寄る価値のある場所です。
園内には海や塩の仕組みを学べる科学館のほか、遊園地「わくわくランド」、オートキャンプ場、かつての塩田を復元した「塩の国」といった施設が揃っています。「塩の国」を見学すると、赤穂という土地が古くから塩業で栄えてきた歴史にも触れられます。アクセスは、車の場合は山陽自動車道赤穂インターチェンジから約10分、住所は兵庫県赤穂市御崎1857-5です。サイクリングルートの途中に組み込みやすい立地なので、海沿いコースの中間拠点として活用できます。
隣接するオートキャンプ場は西日本でも有数の規模を持ち、電源や水道を備えたファミリーサイトから、自由にテントを張れるフリーサイトまで複数のタイプが用意されています。芝生広場では年末年始を除いて自由にバーベキューを楽しめるため、サイクリングの締めくくりに立ち寄って食事をとる人も見られます。園の近くには潮干狩りができる浜辺もあり、季節によっては海沿いの自転車旅にもうひとつの楽しみが加わります。
坂越の大道は北前船寄港地として日本遺産に認定
坂越(さこし)は、複雑に入り組んだ湾を持つ天然の良港で、古くから海上交通の要衝として栄えてきました。中心部を貫く「大道(だいどう)」と呼ばれる通りには、江戸時代に廻船業(かいせんぎょう)で栄えた往時の繁栄を伝える町並みが今も残っています。塩や海産物の運搬拠点として発展したこの港町は、2018年4月、日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間、北前船寄港地・船主集落」の構成文化財のひとつとして、「北前船寄港地・坂越浦」の名で認定を受けました。江戸から明治にかけて日本海側と大阪、瀬戸内をつないだ北前船の交易ネットワークで、坂越は西回り航路の重要な寄港地でした。
自転車を降りて大道を歩くと、格子戸の残る商家建築や町家の意匠に、往時の繁栄を感じる風景が随所にあります。大道の入口にあたる木戸門跡には当時の礎石が2個残されており、かつてはここに門番が置かれ、朝に門を開き晩に戸締りをしていたと伝わっています。木戸門跡から海へ続く石畳の道沿いに、坂越の歴史的な町並みが連なっています。
大道沿いの「坂越まち並み館」は、大正時代に奥藤銀行坂越支店として建てられた木造建屋を活用し、1994年に開館しました。館内には坂越の名所旧跡や特産品に関する資料が展示されており、かつて銀行だった名残であるアメリカ製の古い大金庫も見られます。桃山時代の1601年創業と伝わる奥藤酒造では酒蔵の見学や利き酒体験ができ、蔵の一角にある「奥藤酒造郷土資料館」(入館無料)には、江戸時代の酒造りの道具や廻船関連の資料、古文書などが展示されています。徒歩でしか味わえない路地の情緒とあわせて、こうした歴史的建造物をめぐる時間を作ってみてください。
大避神社の坂越の船祭りは瀬戸内海三大船祭りの一つ
大避神社(おおさけじんじゃ)には、飛鳥時代に活躍した渡来人の秦河勝(はたのかわかつ)が祭神として祀られています。秦河勝は聖徳太子に仕えた人物として知られ、坂越の地で没したという伝承が残っており、地域の信仰の中心となってきました。
大避神社の祭礼「坂越の船祭り」は、瀬戸内海三大船祭りのひとつに数えられ、国の重要無形民俗文化財に指定されています。毎年10月の第二日曜日に本宮の神事が行われ、2026年は10月11日がその日にあたります。祭礼用の和船11艘が坂越の湾内を渡御(とぎょ)する光景は、多くの見物客を惹きつけてきました。祭りの時期に合わせて訪れれば、坂越が育んできた海の信仰と歴史の厚みをより深く感じられるはずです。
坂越かきは坂越浦の水質の良さが生む濃厚な味
坂越かきは、坂越浦の水質の良さによって濃厚な味に育つ牡蠣です。出荷される直前まで栄養豊富な海水の中で餌を食べ続けるため身が育ち、海水由来の塩味がしっかり感じられます。何も付けずにそのまま食べられると評判で、加熱しても身がほとんど縮まないという特徴もあります。
坂越には、牡蠣を炭火や網で焼いて味わえるかき小屋スタイルの飲食店や、生産者が直営する牡蠣料理専門店が点在しています。シーズン中は焼きがきの食べ放題を提供する店もあり、サイクリングで体を動かしたあとに新鮮な牡蠣を味わうのは、このエリアならではの楽しみ方です。牡蠣料理のほかにも、赤穂の名産である塩を使った料理や地元の海産物を活かした定食を出す店が多く、海沿いの町らしい食文化を味わえます。坂越かきは季節限定の味覚なので、訪れる前に旬の時期や各店舗の営業状況を確認しておいたほうがよいでしょう。種付けは初夏に行われ、11月ごろから出荷が始まり、5月末ごろまで味わえるとされています。出荷が始まったばかりの時期は身が小さめですが、冬に近づくにつれて身が大きく育っていくため、訪れる時期によって味わいの違いを楽しめます。
上級者向けの七曲りは御津から室津の絶景ルート
御津(みつ)から室津(むろつ)にかけての海岸線ルートは、通称「七曲り」と呼ばれ、播磨地域のサイクリングコースの中でも人気の高いルートです。週末には多くのサイクリストが集まる定番スポットになっています。
七曲りの魅力は、瀬戸内海を間近に望む雄大な景観です。空気の澄んだ晴れた日には、遠く小豆島や四国の島影まで見渡せます。一方で、山と海に挟まれた道はアップダウンが小刻みに続き、線形も曲がりくねっているため、走行にはある程度の体力と技術が求められます。車やオートバイが速いスピードで通行する区間もあるので、自転車で走る際は交通量や路肩の状況に注意してください。千種川沿いの穏やかなコースや坂越の町並み散策で物足りなさを感じた人は、安全確保に留意したうえで七曲りへ足を延ばすとよいでしょう。
生島樹林は坂越湾に浮かぶ手つかずの原生林
坂越浦の沖合に浮かぶ生島(いきしま)は、全域が瀬戸内海国立公園の特別保護地区に指定されています。島の原生林は「生島樹林」として国の天然記念物にも指定されており、1924年12月9日に指定を受けました。古くから神域として人の立ち入りが禁じられてきたため、開発の手が入らないまま原始の森が今も保たれています。
坂越の入り組んだ湾と、その沖に浮かぶ緑豊かな生島が織りなす景観は、坂越を象徴する風景のひとつです。坂越の港沿いを走りながら、あるいは大道の散策の合間に、この手つかずの自然が残る島影を眺めてみてください。赤穂エリアには、赤穂城跡から赤穂海浜公園を経由して赤穂御崎に至る、片道6キロメートル・所要時間約20分の史跡めぐりコースもあります。千種川・坂越方面のコースとあわせて、赤穂御崎方面へ足を延ばす選択肢もあります。
赤穂城跡は日本100名城で忠臣蔵ゆかりの史跡
赤穂城は、近世城郭史の中でも珍しい変形輪郭式の海岸平城です。1645年に「忠臣蔵」の物語で知られる浅野家が入封したのちに拡張整備され、縄張り(設計)は甲州流軍学者の近藤正純によるものです。日本100名城のひとつにも数えられています。
本丸内には、刃傷事件後に家老の大石内蔵助(大石良雄)らが大評定を行った御殿の間取りを再現した石舞台があり、天守台からは赤穂の市街地や周辺の風景を一望できます。大石内蔵助の屋敷跡も見学でき、忠臣蔵ゆかりの地としての奥行きを感じられます。城に隣接する赤穂市立歴史博物館では赤穂の塩づくりの歴史に関する展示も見られ、サイクリングとあわせて地域の歴史を知る機会になります。赤穂城跡の敷地内には自転車やペットの立ち入りが禁止されているエリアもあるため、訪れる際は自転車を所定の場所に停めて徒歩で見学してください。
赤穂の塩は入浜式塩田で全国屈指の名品と呼ばれた
赤穂における塩づくりの起源は弥生時代までさかのぼるとされますが、産業として本格的に発展したのは江戸時代からです。赤穂は瀬戸内海に面した広大な干潟に恵まれ、年間を通じて晴天の日が多い気候条件と、潮の干満差が大きい瀬戸内海の特性を活かした「入浜式塩田」による製塩が発展した地域です。専業経営として持続可能な入浜塩田による塩づくりを完成させた最初の地としても知られており、近世・近代の文献には「播州赤穂の塩を名物とす」「塩は当国赤穂にて製するを国内第一等の品とす」といった記述が残っています。
千種川を挟んで西側の西浜で作られた塩は、にがり分の少ない上質な塩として評価されました。東側の東浜では「差塩(さしじお)」と呼ばれる、にがりを含ませた独自の製法による塩づくりが伝統として受け継がれてきました。かつて広大な塩田が広がっていた土地の一部は、現在の赤穂海浜公園として整備されており、園内の「塩の国」では当時の塩田の様子を復元した施設で製塩文化の歴史を体感できます。千種川の水と瀬戸内海の潮、そして温暖な気候が結びついて生まれた赤穂の塩の物語は、サイクリングで巡るこのエリアの奥深さを引き立てる要素です。
サイクリングを快適にする季節と装備の注意点
千種川から赤穂・坂越の海沿いを走るコースは、全体として走りやすい部類に入ります。ただし海沿いの道は風の影響を受けやすく、冬場は季節風が強く吹くことがあるため、防風対策のウェアを準備しておくと安心です。夏場は日差しを遮るものが少ない区間もあるので、熱中症対策として水分補給用のボトルや帽子、日焼け止めを用意してください。
千種川サイクリングロードは川沿いの堤防を走るルートなので、大雨のあとは増水や路面状況の変化に注意が必要です。訪れる前に天候や河川情報を確認しておくと安全にサイクリングを楽しめます。坂越の集落内は道幅が狭い路地も多く、観光客や地元住民の往来もあるため、町並みの中では自転車を降りて押し歩きするなど周囲への配慮を心がけてください。歴史的な町並みを未来に残すためにも、マナーを守った散策が求められます。
レンタサイクルを利用する場合は、営業時間や返却場所、乗り捨ての可否を事前に確認しておくとスムーズです。播州赤穂駅と坂越駅の間で片道利用を考えている場合、当日の混雑状況によって自転車の在庫が変わることもあるので、余裕を持った計画を立てておいてください。
季節ごとの楽しみ方も変わります。春と秋は気候が穏やかで走りやすく、初心者にもおすすめのシーズンです。春は川沿いの緑や花が美しく、秋は空気が澄んで瀬戸内海の眺望がより鮮やかになります。夏は坂越かきのシーズンではありませんが、海水浴や赤穂海浜公園でのレジャーと組み合わせて楽しむプランが人気です。冬は坂越かきが旬を迎える時期で、サイクリングで体を温めたあとに温かい牡蠣料理で締めくくる楽しみ方ができます。
相生駅から播州赤穂駅への電車アクセス
千種川・赤穂・坂越エリアへ公共交通機関で向かう場合、拠点になるのが山陽新幹線が停車する相生(あいおい)駅です。相生駅はJR赤穂線の起点駅でもあり、ここからJR赤穂線に乗り換えれば播州赤穂駅までおよそ11分で到着します。遠方から新幹線を利用する場合も、相生駅を経由すればスムーズにアクセスできるため、県外からのサイクリング旅行の拠点としても使いやすい駅です。
播州赤穂駅に着いたら、駅舎2階の赤穂観光協会でレンタサイクルを借り、そのまま千種川河口へ向かうのが基本的な流れです。赤穂市街地は平坦な道が多く歩道の幅にも余裕があるとされており、自転車での移動そのものがしやすい街並みであることも、このエリアでサイクリングが親しまれている理由のひとつです。
千種川サイクリングコースを起点に、赤穂の海沿いから坂越の歴史ある町並みまでを巡る旅では、清流の穏やかな流れと瀬戸内海の開放的な景観、そして北前船の歴史が息づく港町の情緒を一度に味わえます。播州赤穂駅や坂越駅でのレンタサイクル利用も手軽なので、初心者から経験者まで自分のペースで楽しめるはずです。赤穂海浜公園での休憩、大避神社への参拝、坂越かきをはじめとするグルメ、上級者向けの七曲りルートまで、季節や体力、興味に合わせて自由に組み合わせてみてください。








