滋賀県の琵琶湖をぐるりと自転車で走る旅は「ビワイチ」と呼ばれ、走行距離はおよそ200キロメートルにおよびます。湖岸道路を一周するこのサイクリングコースは2019年11月7日に国土交通省のナショナルサイクルルートに指定され、道路上の案内表示や休憩拠点の整備が進んだことで、初心者からベテランまで挑戦しやすい環境が整いました。琵琶湖大橋を境に北側の北湖と南側の南湖に分けて走ることもでき、体力や日程に合わせて距離を調整できる自由度の高さが、幅広い層から支持されている理由です。この記事では、ビワイチのルートの特徴やスタート地点の選び方、観光やご当地グルメ、レンタサイクルや輪行の方法、服装や持ち物、開催中のイベントや完走証の取得方法まで、実際に走る前に知っておきたい情報をまとめます。

琵琶湖一周コースは約200キロで北湖150キロ・南湖50キロに分かれる
ビワイチの全周を走る「フルビワイチ」は約200キロメートルです。資料によっては約188キロメートルという表記もあり、数字に幅があるのはスタートやゴール地点の取り方によるものです。琵琶湖大橋を境に北側だけを走る「北湖一周」は約150キロメートルから160キロメートル、南側だけを走る「南湖一周」は約50キロメートルとなります。北湖側は自然が豊かで信号や交通量が少なく、南湖側は大津市や草津市、守山市など市街地に近いエリアを通ります。走り慣れた人なら一日での走破も可能ですが、観光やグルメを味わいながら巡るなら2日から3日かけるのが一般的なスタイルです。琵琶湖には湖上を移動する船便もあり、これを組み合わせて一部区間をショートカットする楽しみ方もあります。
反時計回りが基本ルートになる理由
ビワイチは湖を右手に見ながら進む反時計回りが定番です。常に琵琶湖を進行方向の右側に見て走れるため景色を眺めやすく、道路の構造上も走りやすいことがその理由です。初めて走る人はまずこの向きに沿って計画を立てると、迷わずコースをイメージしやすくなります。
ビワイチは2019年11月7日にナショナルサイクルルートに指定された
ナショナルサイクルルートは、走行環境の整備状況や受け入れ環境、情報発信の充実度をもとに国が選ぶ優れたサイクリング環境のことです。ビワイチはこの指定を受けたことで、道路上の案内表示や休憩・支援拠点の整備が進みました。指定から数年が経った現在では、初めて訪れるサイクリストでも走りやすい環境がすでに定着しています。国の後押しを受けたルートという点は、他の観光地にはない安心材料になっています。
スタート地点は大津港・米原駅・守山の3か所が定番
ビワイチのスタート地点としておすすめされているのは主に3か所です。琵琶湖南側の大津港サイクルステーションは京都や大阪など関西圏からのアクセスがよく、電車でも車でも訪れやすい立地です。琵琶湖北東の米原駅サイクルステーションは新幹線が停車する駅からすぐに出発できる利便性があり、遠方から輪行で訪れる人に選ばれています。琵琶湖大橋に近い守山エリアは北湖・南湖どちらの方向にも進みやすい中間的な立地です。これらの地点にはレンタサイクルや荷物預かり、更衣室、シャワーなどの施設が整っている場合が多く、公共交通機関で手ぶらで訪れても現地で自転車を借りて出発できます。
彦根城や白鬚神社など観光とご当地グルメも楽しめる
ビワイチの魅力は走ること自体の爽快感だけにとどまりません。ルート上には歴史的な名所や絶景スポットが点在しており、サイクリングと観光を同時に楽しめます。国宝天守を持つ彦根城、豊臣秀吉ゆかりの長浜城、湖の中に鳥居が立つ白鬚神社は代表的な立ち寄りスポットです。白鬚神社は「近江の厳島」とも呼ばれ、湖上の大鳥居と夕景の組み合わせが人気の撮影ポイントになっています。比叡山の麓に広がる里坊や日吉大社の門前町、織田信長が築いた安土城跡など、歴史好きが満足できる場所も豊富です。
グルメの面では、琵琶湖の湖魚料理や近江牛、地元の地酒、湖畔のカフェで味わえるご当地スイーツが揃っています。長時間のライドではこまめな補給が欠かせませんが、ビワイチではその補給タイムを観光やグルメ体験として楽しめる点が、単なるスポーツバイクの走行にとどまらない魅力になっています。
初心者は南湖一周50キロから始めるのが安全
ビワイチは長距離のため、初めて挑戦する人にはハードルが高く感じられるかもしれません。ただし、いきなり全周を目指す必要はありません。南湖一周の約50キロメートルから体力やペース配分の感覚をつかみ、慣れてきたら北湖一周や全周走破へ段階的にステップアップするのが無理のない方法です。南湖コースは大津市や草津市、守山市など市街地に近く、観光やグルメを気軽に楽しみたい人やサイクリング入門者に向いています。
青い矢羽根とアプリでルートを迷わず走れる
道路上には青い矢羽根のマークが整備されており、これに沿って進むだけで迷わずルートをたどれます。加えて「BIWAICHI Cycling Navi」というスマートフォン向けアプリもあり、現在地の確認やルート案内、周辺のサポート施設の検索に活用できます。地図が読めるかどうか不安な人でも、この2つを併用すれば道に迷う心配はかなり減らせます。
サイクルサポートステーションで工具や休憩に対応
ルート上には「ビワイチサイクルサポートステーション」と呼ばれる拠点が複数設置されています。簡単な工具の貸し出しや空気入れ、休憩スペースの提供、トイレの利用など、サイクリストを支援するサービスが受けられます。長距離を走る中でトラブルが起きても、こうした支援拠点があることで安心感は大きく変わります。
モデルコースは1泊2日で1日75キロが目安
日帰りで走破する場合は、走行に慣れた人が早朝からスタートし、休憩を挟みながら一日でゴールを目指す形になります。ただし観光やグルメを楽しむ余裕は少なくなるため、走ること自体を目的とする上級者向けのスタイルです。初心者や観光も楽しみたい人には1泊2日、あるいは2泊3日の日程が向いています。1泊2日で走る場合の目安は1日あたり75キロメートルを2日間、合計150キロメートル程度のペース配分です。時速12キロメートルほどのゆったりとしたペースで走りながら、おやつや食事、観光をしっかり楽しむプランになります。荷物は1日目に必要な分だけを携行し、2日目以降に使う荷物はあらかじめ宿泊先に配送しておくと身軽に走れます。
サイクリストにやさしい宿は自転車を部屋に持ち込める
琵琶湖畔には「サイクリストにやさしい宿」として認定された宿泊施設が複数あり、自転車をそのまま部屋に持ち込めるホテルや、洗車スペース、工具の貸し出しを提供する宿も増えています。部屋への自転車持ち込みが可能なホテルとして今津サンブリッジホテルが、サイクリストにやさしい宿として認定されているホテルとしてホテル琵琶レイクオーツカが挙げられます。ゲストハウスの中にもビワイチ歓迎を掲げる施設があり、荷物の一時預かりや自転車の分解洗浄スペースを備えているところもあります。
レンタサイクルと輪行、近江鉄道のサイクルトレインを使い分ける
自分の自転車を持っていない場合や輪行の手間を省きたい場合は、現地でのレンタサイクルが便利です。大津港にはスポーツバイクをレンタルできる「ビワイチバイク」というレンタサイクル拠点があり、湖のすぐそばに位置しているため関西方面からのアクセスにも優れています。一部のレンタサイクルサービスでは出発地と異なる場所での途中返却に対応しており、片道だけ走って乗り捨てるといった使い方も可能です。
自分の自転車で参加したい場合は、輪行袋に収納して電車で移動する輪行が一般的な方法です。加えて、琵琶湖周辺には自転車をそのまま解体せずに車内に持ち込める「サイクルトレイン」を提供する鉄道会社もあります。近江鉄道では、米原駅から甲賀駅までの本線区間(彦根駅を除く)と多賀線において、平日の日中時間帯、おおむね午前9時から午後4時ごろの間、運行するすべての列車で自転車をそのまま持ち込めます。運賃は通常の乗車運賃のみで、追加料金なしに利用できるのは大きな魅力です。輪行袋への収納が不要なため、初めて自転車を電車に持ち込む人でも扱いやすいサービスといえます。
服装は春秋がベストシーズンでレイヤリングが基本
ビワイチのベストシーズンは、気候が安定して過ごしやすい春の4月から5月、そして秋の9月から10月です。この時期は気温が走りやすく景色も美しいため、多くのサイクリストがこの季節にビワイチへ挑戦します。服装は速乾性と通気性に優れたサイクルウエアを基本にしつつ、気温の変化に対応できるよう防寒用のインナーやジャケットを重ね着するレイヤリングが基本になります。走行中に汗をかいたら一枚脱ぎ、休憩中や下り坂で肌寒さを感じたら上着を着るなど、こまめな体温調節が快適なライドの鍵です。
春や秋には薄手のネックゲーターやバンダナが首元の防寒や日焼け対策に役立ち、夏場には冷感タオルや日除けになるキャップが暑さ対策として有効です。冬場にはヒートテック素材のインナーやカイロを活用すれば、寒さの厳しい季節でも走行を楽しめます。手元の防寒や汗対策として、季節に応じたサイクリンググローブを選ぶことも快適性を左右します。
持ち物としては、長距離のライド中に起こりうるパンクに備えてタイヤの修理キットを携帯しておくことが欠かせません。荷物はできるだけ軽量化し、必要最小限にまとめることで安全性を確保しながら軽快に走れます。長時間屋外で活動することになるため、飲料水や補給食、日焼け止め、レインウエアといった基本的な装備も忘れずに準備しておきましょう。
ビワイチの日やスタンプラリーなど参加型イベントも充実
ビワイチは個人での自由なサイクリングだけでなく、各種イベントや大会の舞台としても活用されています。滋賀県内では、サポート付きで自由な走行スタイルを取り入れたロングライドイベントが開催されており、参加者の体力やレベルに応じて45キロメートル、83キロメートル、150キロメートルといった複数のコースが用意されるケースもあります。給水・給食ポイントの設置やコース上でのサポート体制が整えられているため、初めて長距離ライドに挑戦する人でも参加しやすい環境です。
2026年には新たな春のロングライドイベントが初開催されました。ビワイチを盛り上げる取り組みは年々広がりを見せており、11月3日を「ビワイチの日」と定め、その前後を「ビワイチ週間」として関連イベントやキャンペーンが集中的に実施される取り組みも続いています。湖北エリアを中心としたスタンプラリー企画も秋のシーズンに合わせて開催されており、走るだけでなく参加型の企画を通じてビワイチの魅力を体感できる機会が充実しています。イベントの詳細な日程や参加方法は公式情報サイトで随時更新されるため、参加を検討する際には最新情報を確認することをおすすめします。
完走証は『びわ湖一周認定システム』で発行手数料1000円
ビワイチには走破した記念として取得できる完走証の仕組みがあります。専用アプリ『びわ湖一周認定システム』でアカウントを作成し、ルート上に設置された「びわ湖一周サイクリング認定」のチェックポイントでポスターを確認しながら簡単なクイズに答えていくことで、完走の実績を記録できます。認定を受けるには最低4つのチェックポイントをクリアする必要があり、完走証の発行には1000円の手数料がかかります。走り切るだけでなくこうした記念証を目標にすることで、モチベーションを保ちながら長距離ライドに取り組めるのも魅力のひとつです。
「ビワイチサイクリングナビ」アプリを活用したスタンプラリーでは、高島市エリアなどに設置されたスタンプスポットを巡ることで、抽選により地域の特産品が当たるキャンペーンが実施されています。3ポイント貯まった時点で賞品への応募が可能になり、すべてのスタンプを集めきると近江牛が当たるチャンスも用意されています。このほか、「自転車NAVITIME」アプリを使ったナショナルサイクルルート共通のスタンプラリーもあり、複数のスポットを巡ることで完走賞や半走賞といった賞を目指せます。滋賀県が実施する「ビワイチサイクリングマイレージ」のように、期間を区切って参加者の走行実績を集計する企画もあり、シーズンごとに新しい楽しみ方が加わっています。
走行の8割は平坦だが賤ヶ岳周辺などに坂道がある
ビワイチのコースは全体のおよそ8割が平坦な道で構成されており、極端な激坂が連続するコースではありません。とはいえまったくアップダウンがないわけではなく、特に北湖エリアには賤ヶ岳周辺をはじめいくつかの峠道や坂道があります。これらの上りは足を止めずに走れば5分程度で通過できる区間がほとんどなので、事前に心構えをしておけば大きな不安要素にはなりません。
一方で注意したいのが交通量の多い区間です。大津市や草津市、彦根市など市街地を通過する区間や、国道8号線、国道161号線と合流する区間では交通量が多く、大型トラックが頻繁に行き交うため車道を走る際には十分な注意が必要です。特に国道161号線に合流してからの区間は交通量が多いことで知られており、車列の切れ目を見極めながら安全な走行を心がける必要があります。
白鬚神社の大鳥居前は停車せず撮影する
人気の撮影スポットである白鬚神社の大鳥居前は、道路上での停車が危険とされています。写真を撮りたい場合は鳥居の前でいきなり停まらず、少し通り過ぎた場所から歩道に入り、安全な場所から参拝や撮影をしましょう。補給ポイントについても事前の確認が重要です。ルート沿いにはコンビニエンスストアや道の駅、カフェなどが点在しており多くの区間では困ることは少ないものの、湖北エリアなど一部では店舗が少なくなる区間もあります。出発前におおまかな補給ポイントの位置を把握し、水分やエネルギー補給のタイミングを計画しておくと、長距離ライドをより安心して楽しめます。
e-bikeなら一充電で約100キロ走れる
体力に自信がない人や坂道での負担を減らしたい人には、電動アシスト自転車のレンタルもおすすめです。大津港の「ビワイチバイク」では、ロードバイクだけでなくe-bikeを含む幅広いレンタルバイクを取り揃えているほか、初心者から上級者まで対応したガイド付きサイクリングツアーも用意されています。守山エリアのジャイアントストアびわ湖守山でも、脚力に自信がない人に特におすすめとされるe-bikeのレンタルサイクルを提供しています。電動アシストの力を借りれば、上り坂やアップダウンの多い区間もスムーズに走行でき、ロングモードであれば一充電あたり約100キロメートルの走行が可能です。長距離であるビワイチにおいて、体力面の不安を軽減しながらスポーツバイクの走行を楽しめる点は、e-bikeならではの大きなメリットです。
夏休みやゴールデンウィーク、紅葉シーズンなどの観光ピーク時には、レンタサイクル専門店において事前予約が必須となるケースが多く、人気の高い店舗では開店前に予約が埋まってしまうことも珍しくありません。繁忙期にビワイチを計画する場合は、早めの予約を心がけることが重要です。
東京・大阪・京都からのアクセスは米原駅か大津駅が起点
ビワイチへのアクセスは公共交通機関を利用する方法が中心です。遠方から訪れる場合は新幹線で米原駅まで移動するのが便利で、米原駅には「びわこ一周レンタサイクル」の拠点もあり、駅を出てすぐにサイクリングをスタートできます。関西方面からのアクセスも良好です。京都駅からはJR線でおよそ10分ほどで大津駅に到着でき、新幹線から在来線への乗り継ぎもスムーズです。米原と京都間の移動では、新幹線を利用すると所要時間はおよそ19分、新快速電車を利用した場合はおよそ55分となり、予算や時間に応じて移動手段を選べます。大阪方面からも新快速電車などを利用することで、乗り換えの少ないアクセスが可能です。
車で訪れる場合は、名神高速道路や北陸自動車道のインターチェンジが琵琶湖周辺に複数あり、各出発地点付近には有料・無料の駐車場も点在しています。事前に最寄りのインターチェンジと駐車場を調べておくと、当日の移動がスムーズになります。
初挑戦は南湖コースから始めて北湖・フルビワイチへ
ビワイチは、日本最大の湖である琵琶湖の景観を自転車で味わえる国内屈指のサイクリングルートです。ナショナルサイクルルートに指定されるなど公的な評価も高く、道路上の案内表示やサポート拠点、レンタサイクルやサイクルトレインといった移動手段の充実によって、初心者から上級者まで幅広い層が挑戦しやすい環境が整っています。約200キロメートルという距離は一見すると高いハードルに感じられるかもしれませんが、北湖・南湖といった区間ごとの走行や1泊2日・2泊3日の日程の工夫、レンタサイクルやサイクルトレインの活用によって、自分の体力やスケジュールに合わせた挑戦が可能です。道中には彦根城や白鬚神社をはじめとする見どころが数多くあり、湖魚料理や近江牛といったご当地グルメ、サイクリストにやさしい宿泊施設も充実しているため、スポーツとしてだけでなく旅としての満足度も高いのがビワイチの魅力です。
これから初めてビワイチに挑戦する人は、まず短い区間や日帰りで走りやすい南湖コースから体験してみて、慣れてきたら北湖一周やフルビワイチへとステップアップしていくのがおすすめです。季節ごとの服装や持ち物の準備、こまめな休憩と補給を心がけながら、自分のペースで琵琶湖の魅力を味わってみましょう。








