重川サイクリングロードは、山梨県甲州市を起点に山梨市を経由して笛吹市へと続く自転車道です。峡東地域と呼ばれるこの3市にまたがるエリアには、対岸を走る笛吹川サイクリングロードや広域農道のフルーツラインもあり、組み合わせれば3市を1日で巡る周遊ルートを描けます。ぶどうや桃の果樹園が広がる田園風景、石和温泉、勝沼のワイナリーまで、峡東地域ならではの魅力を自転車で楽しむための情報をまとめました。

重川サイクリングロードは甲州市から笛吹市までの峡東地域を貫く自転車道
重川サイクリングロードは、甲州市を起点として山梨市を経由し、笛吹市に至る自転車道です。この道が沿って走る重川は、甲府盆地東部の峡東地域を流れる一級河川で、対岸には笛吹川本流に沿う「笛吹川サイクリングロード」が整備されています。両者はセットで語られることが多く、地元の観光サイトでも並べて紹介されています。
峡東地域は果樹栽培が盛んなことで知られ、ぶどう、もも、さくらんぼなどの果樹園が広がる田園風景の中を走れるのが最大の魅力です。単なる移動手段としてではなく、季節ごとの景観を楽しみながら走るコースとして親しまれています。
重川は柳沢峠付近を水源に持つ笛吹川水系の一級河川です
重川は、富士川水系の笛吹川支流である日川の、さらに支流にあたる一級河川です。かつての塩山市、現在の甲州市塩山萩原付近、柳沢峠の下流域を水源とし、甲府盆地を西へ向かって流れます。流路はおおむね国道411号に沿う形をとり、途中で更科温泉や雲峰寺の近くを通過し、山梨市と笛吹市の境界付近で日川と合流したのち、最終的に笛吹川へ注ぎます。
重川沿いには、甲斐の三大水難場所として歴史的に知られる万力堤、近津堤、竜王堤といった治水の史跡が残っています。かつてこの地域が水害に悩まされてきた歴史を物語る場所です。河川沿いには最大出力110kWの小規模な水力発電所、重川発電所が公衆浴場施設内に設置されており、地域の資源を活かした発電も行われています。中央自動車道の勝沼インターチェンジから車で約30分の距離にあり、川沿いに道が通っているため川へのアクセスもしやすく、アマゴやイワナを狙う渓流釣りのスポットとしても知られています。
対岸の笛吹川サイクリングロードは総延長26.1kmの平坦ルートです
重川サイクリングロードの対岸、笛吹川本流沿いに整備されているのが笛吹川サイクリングロードです。山梨市の万力公園を起点に、市川三郷町の三郡橋方面まで続く総延長26.1kmのロングコースで、区間によっては約28kmとする資料もあります。「笛吹川サイクリングロード1号線」とも呼ばれ、ほぼ平坦な道が笛吹川に沿って一直線に続き、信号もほとんどないためノンストップで走れます。自転車だけでなく、ランニングやウォーキング、犬の散歩にも利用され、地域住民の憩いの場になっています。
重川サイクリングロードと笛吹川サイクリングロードを組み合わせれば、甲州市、山梨市、笛吹市の3市を周遊する広域ルートを描けます。片方だけを往復するより、対岸も含めて周回する形にしたほうが、川沿いの違った景色を楽しめます。
石和温泉駅発着の笛吹川河川敷コースは徒歩鵜が見どころです
石和温泉駅から笛吹川河川敷のサイクリングロードを走る約16kmのコースも人気です。駅からもっとも近い鵜飼橋付近では、800年の歴史を持つとされる徒歩鵜という珍しい鵜飼いが行われています。一般的な鵜飼いは船の上から鵜を操りますが、徒歩鵜は船を使わず、川の中を歩きながら1羽の鵜を操る漁法で、全国的にも珍しく、笛吹市ならではの伝統文化として知られています。サイクリングの途中でこうした伝統文化に触れられるのも、このコースの魅力です。石和温泉の観光と組み合わせやすい距離感で、温泉宿に泊まりながら自転車で周辺を回る計画を立てやすいコースといえます。
フルーツラインは標高差560mの果樹地帯周回ルートです
重川、笛吹川サイクリングロードとあわせて紹介されることが多いのが、広域農道のフルーツラインです。甲府盆地東斜面、峡東地域の果樹地帯を通る道で、道幅が広く信号機も少ないため、快適なドライブ、サイクリングコースとして親しまれています。
笛吹市春日居町から甲州市勝沼町方面へと延びるルートで、標高差は約560m、アップダウンが多いのが特徴です。平坦ではありませんが、その分、果樹園が織りなす景観を一望できます。沿道には観光農園が並び、初夏から秋にかけてぶどうやさくらんぼなどのフルーツ狩りを楽しめます。笛吹川フルーツ公園からは富士山を望むことができ、4月上旬から中旬にかけては、眼下に桃の花が一面に広がる桃源郷の景色が見られます。
山梨県の観光公式サイトで紹介されている「フルーツラインコース」は、笛吹川フルーツ公園をスタート地点として広域農道を走行し、石和温泉駅近くを通過、金川の森を抜けて万力公園付近を経由し、ゴールの笛吹川フルーツ公園へ戻る周回コースです。果樹園地帯のアップダウンを楽しみながら、甲府盆地や富士山の展望、季節ごとの花や果実を眺められる周回ルートとして人気があります。
| コース名 | 特徴 | 距離の目安 |
|---|---|---|
| 笛吹川サイクリングロード | 平坦、信号少なめ、万力公園が起点 | 総延長26.1km |
| 石和温泉駅発着コース | 平坦、徒歩鵜など伝統文化に触れられる | 約16km |
| フルーツライン | 起伏あり、果樹園とワイナリーが沿道に点在 | 標高差約560m |
山梨県のサイクリングマップでも、峡東地域は甲府盆地を一望できるフルーツワイナリーロードというコンセプトで紹介されており、甲州市勝沼は日本を代表するワイン産地として、ぶどう畑の間を走りながらワイナリー巡りを楽しめるコースとしても知られています。
峡東地域の果樹農業システムは2022年7月に世界農業遺産に認定されました
甲州市、山梨市、笛吹市の峡東地域は、扇状地に適応した果樹農業システムが評価され、令和4年、2022年7月に世界農業遺産の認定を受けました。この地域は日本のぶどう栽培発祥の地とされ、ぶどうのほかにも桃、柿、すもも、おうとうなど、栽培されている果樹の品種や系統は300種以上にのぼるといわれています。起伏と傾斜の大きい扇状地という立地条件を逆手にとり、10品目以上の果樹を適地適作で育てているのが、この地域の農業の特徴です。
甲州式ぶどう棚と疎植・大木仕立てが伝統技術の柱です
400年以上前、この地域では多雨で湿潤な、ぶどう栽培には不利とされる気候条件のもとで安定した栽培を行うため、甲州式ぶどう棚という独自の棚仕立て技術が開発されました。その後生まれた疎植、大木仕立てという栽培法とあわせて、これらは現在に至るまで日本のぶどう栽培の基本技術になっています。
果樹園に自生する植物をあえて残す草生栽培も特徴のひとつです。土壌の流亡を防ぎ有機物を補給する効果に加え、果樹園に昆虫などの生き物が生息できる環境をつくり、生物多様性の保全にも寄与しているといわれています。峡東地域を自転車で走ることは、景観を眺めるだけでなく、世界に認められた伝統的な農業システムを間近で体感する機会にもなります。
この果樹地帯が育った背景には、甲府盆地特有の気候があります。甲府盆地は内陸性の盆地気候で、降水量が少なく日照時間が長いうえ、昼夜や季節の寒暖差が大きいことで知られています。夏は30度を超える真夏日が続き、7月下旬から8月上旬には35度以上の猛暑日になることもある一方、朝晩は気温が下がりやすく、一日の温度差が大きい土地柄です。この寒暖差と日照量の多さが、ぶどうや桃をはじめとする果樹の糖度を高め、峡東地域を果樹栽培に適した土地にしてきました。サイクリングで走る田園風景の裏には、こうした気候条件が積み重なっています。
甲州市はワイナリー巡りと大善寺、ぶどうの丘が見どころです
甲州市はぶどう、ワインの産地として全国的に知られる勝沼地区を抱えています。勝沼ぶどう郷駅の周辺には多数のワイナリーが点在し、ぶどう畑を眺めながらのサイクリングと、ワイナリー巡りを組み合わせて楽しめます。塩山地区には重川の源流に近いエリアがあり、雲峰寺など歴史ある寺社仏閣も点在しています。フルーツラインを使えば、勝沼町から笛吹市春日居町まで、標高差を感じながら走り抜けられます。
甲州市では、電動アシスト付きのレンタサイクル「ぐるりん」が提供されています。勝沼地区は坂道が多いエリアですが、電動アシストがあれば体力に自信がない人でも快適にワイナリー巡りを楽しめます。
勝沼ぶどう郷駅から車で5分ほどの場所にある大善寺は、通称ぶどう寺として親しまれる古刹で、甲州ぶどうの発祥地のひとつとされています。境内には民宿もあり、大善寺オリジナルのワインを味わうこともできます。営業時間は9時から16時30分までです。勝沼ぶどうの丘は360度ぶどう畑に囲まれた高台にあり、地下のワインカーヴには年2回の審査会をパスした甲州市推薦の約200銘柄のワインが並びます。試飲をしながらお気に入りの1本を探せる、ワイン好きには見逃せないスポットです。重川サイクリングロードから少し足を延ばし、勝沼のワイン文化に触れる寄り道を組み込むと、サイクリングの満足度が上がります。
山梨市の万力公園は笛吹川と重川をつなぐ中継拠点です
山梨市には、笛吹川サイクリングロードの起点となる万力公園があります。万力公園は市民の憩いの場として親しまれる緑豊かな公園で、河川敷のサイクリングロードの拠点として利用しやすい立地です。山梨市エリアは重川と笛吹川、日川を含めて合流する地点に近く、両河川のサイクリングロードを行き来する際の中継地点としての役割も果たしています。フルーツラインコースの周回ルートにも、万力公園付近を経由する区間が組み込まれています。
笛吹市は石和温泉とレンタサイクル拠点が充実しています
笛吹市は石和温泉を抱える温泉地で、宿泊と組み合わせたサイクリング観光がしやすいのが特徴です。石和温泉駅周辺には観光案内所や源泉足湯ひろばなど、レンタサイクルを借りられるスポットが複数あり、手ぶらで訪れても自転車を楽しめる環境が整っています。石和温泉駅は改札を出て南口を1階に降りたエレベーター横に観光案内所があり、レンタサイクルの貸し出しを受け付けています。
| 貸出拠点 | 台数の目安 |
|---|---|
| 石和温泉駅前観光案内所 | 3台程度 |
| 石和源泉足湯ひろば | 6台程度 |
| 笛吹市役所 | 3台程度 |
台数は時期によって変動する可能性があるため、利用前に各施設へ確認しておくと安心です。笛吹川フルーツ公園は笛吹市に位置し、フルーツラインコースの起点、終点としても機能する観光拠点です。日本一桃源郷を掲げる笛吹市らしく、桃の花が咲く春先の景観は見応えがあります。
車で訪れる場合は、中央自動車道の勝沼インターチェンジが甲州市側の重川エリアへのアクセス拠点として便利です。笛吹川フルーツ公園や万力公園の周辺には駐車場が整備されているため、車でサイクリング拠点まで移動し、そこから自転車で周遊するスタイルもとりやすくなっています。
笛吹市桃源郷春まつりは電動自転車での花見企画もあります
笛吹市は日本一桃源郷を掲げるだけあって、春の景観は際立っています。市内には約25万本の桃の木があるとされ、例年3月下旬になると開花が始まり、市内一帯が薄桃色の霧に包まれたような桃源郷の景色が広がります。
この時期に合わせて開催される笛吹市桃源郷春まつりでは、境川ミズバショウ春まつりを皮切りに、八代ふるさと公園での出店、桃や桜の名所を巡る「桃源郷を歩こう」といった催しが行われます。電動自転車をレンタルしてお花見や買い物スポットを巡る「桃源郷ROUTE34ライド&ウォーク」というサイクリング企画も用意されており、サイクリングと桃源郷の景観を組み合わせて楽しめるイベントです。桜や桃の名所としては、森林公園の金川の森や八代ふるさと公園が知られています。開催時期や内容は年によって変動するため、訪問前に笛吹市や観光協会の最新情報を確認しておくとよいでしょう。
笛吹川フルーツ公園に近い山梨県森林公園、金川の森には、サイクリングを楽しむ人向けのサイクルステーションが設けられています。フルーツラインコースの途中にも金川の森を通過するルートがあり、休憩や自転車のメンテナンス拠点として活用できます。広い園内には自然観察路や遊具エリアもあり、サイクリングの合間に家族で立ち寄れる場所にもなっています。
サイクルツーリズムとしての広がりも期待されるエリアです
自転車で観光地を巡るサイクルツーリズムには、交流人口の増加や地域産業の掘り起こしといった地域活性化の効果があるとされています。サイクリストは移動の途中でコンビニの補給食を買ったり、道の駅で特産品を購入したり、地元の飲食店に立ち寄ったりと、旅程全体で消費活動を行うため、経済効果も期待されています。滋賀県の琵琶湖を1周する「ビワイチ」は、2015年ごろの参加者数が約5万2000人だったのに対し、2019年11月にナショナルサイクルルートの指定を受けたあとは約10万9000人まで増えたという例もあります。
峡東地域はワイナリー巡り、フルーツ狩り、温泉、伝統的な果樹農業といった観光資源がすでにそろっているエリアです。重川サイクリングロード、笛吹川サイクリングロード、フルーツラインという複数のルートを周遊できる構造は、サイクルツーリズムの受け皿として活用しやすい土台になっています。
モデルコースは石和温泉駅を起点に3市を周遊する半日ルートです
峡東地域のサイクリングを1日で味わうなら、石和温泉駅を起点にする周遊ルートが組みやすくなっています。まず駅でレンタサイクルを借り、笛吹川サイクリングロードを万力公園方面へ北上します。万力公園周辺で休憩したのち、重川沿いのルートへ合流し、甲州市方面へ向かいます。時間と体力に余裕があればフルーツラインへ入り、勝沼方面のワイナリーへ立ち寄ります。帰り道は笛吹川フルーツ公園に寄り、富士山や果樹園の景観を楽しんでから石和温泉駅へ戻り、レンタサイクルを返却して温泉で汗を流す流れです。
このように重川サイクリングロードを軸に、笛吹川サイクリングロードとフルーツラインを組み合わせれば、甲州市、山梨市、笛吹市の峡東3市をまたぐ変化に富んだルートを1日で楽しめます。体力に自信がなければ平坦な笛吹川サイクリングロードと石和温泉駅発着コースだけで組み立て、走り応えを求めるならフルーツラインを組み込む、という選び方ができます。
峡東地域のサイクリングでよくある疑問に答えます
初心者でも走れるかという疑問には、笛吹川サイクリングロードや重川沿いの道が比較的平坦で信号も少ないため、答えやすいコースといえます。ウォーキング感覚で利用している人も多く、家族連れにも向いています。一方でフルーツラインは標高差約560mのアップダウンがあるため、ロードバイクでしっかり走りたい人向けのコースです。目的や体力に応じて選び分けるのがおすすめです。
自転車を持っていなくても楽しめるかという点については、石和温泉駅や甲州市内で電動アシスト付きを含むレンタサイクルが借りられるため、手ぶらで訪れても問題ありません。坂の多い勝沼地区では、甲州市の「ぐるりん」のような電動アシスト車を選ぶと快適です。
いつ訪れるのがよいかという疑問には、季節によって表情が大きく変わる点を伝えられます。春の4月上旬から中旬は桃の花が咲く桃源郷の景色、3月下旬から4月にかけては桃源郷春まつりの各種イベント、初夏から秋にかけてはぶどうやさくらんぼのフルーツ狩りシーズンにあたります。訪れる時期によって、まったく違う表情のサイクリングを楽しめるのがこのエリアの特徴です。
温泉と組み合わせられるかという点では、石和温泉という知られた温泉地が笛吹市にあるため、日帰り入浴や宿泊と組み合わせてサイクリングを計画しやすくなっています。汗をかいたあとに温泉で疲れをほぐせるのは、このエリアならではの楽しみ方です。
走る際の装備についても触れておきます。山梨県には「山梨県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」があり、道路交通法の改正にあわせて令和5年4月からは自転車利用者のヘルメット着用が努力義務になりました。児童や幼児を自転車に乗せる場合や同乗させる場合も、ヘルメットをかぶらせるよう努める内容が盛り込まれています。レンタサイクルを利用する際も、貸出窓口でヘルメットの用意があるか確認し、できる範囲で着用しておくと安心です。
重川サイクリングロードは、単体で見れば峡東地域を流れる一河川沿いの自転車道です。ですが対岸の笛吹川サイクリングロードや広域農道のフルーツラインと組み合わせることで、甲州市、山梨市、笛吹市の3市にまたがる広域サイクリングエリアの一部として機能しています。世界農業遺産に認定された果樹園景観、ぶどう畑とワイナリー、桃源郷と呼ばれる春の景色、そして石和温泉という土地の存在が組み合わさり、初心者からロードバイク愛好者まで楽しめるエリアになっています。石和温泉駅を拠点にレンタサイクルを利用すれば、電車でのアクセスからも気軽にサイクリングを始められます。








