佐賀県嬉野市にある茶畑を巡るサイクリングは、電動アシスト自転車を使えば急な坂道でも無理なく走り切れます。市街地は平坦なのでサイクリング初心者でも走りやすく、坂道が集中する区間だけ電動アシストの力を借りれば十分です。温泉街から茶畑を抜けて展望台まで上り、最後は足湯や温泉で汗を流す流れが、嬉野を訪れるサイクリストのあいだで定番コースになっています。ここではレンタル料金やコースの選び方、周辺のグルメや歴史的な見どころまで、実際に走る前に知っておきたい情報を順にまとめました。

電動アシスト自転車は1日1,300円、お茶代込みで借りられる
嬉野温泉街でのレンタルサイクルは、老舗旅館の和多屋別荘敷地内にある「シモムラサイクルズ」が中心的な拠点です。旅館の広い敷地の一角にレンタルサイクル拠点があるため、宿泊客だけでなく日帰りの立ち寄りでも利用しやすくなっています。ここで借りられる自転車は、シティサイクルから電動アシスト車、クロスバイク、ロードバイクまで4種類あり、料金はすべてうれしの茶のお茶代込みで設定されています。
| 車種 | 1日レンタル料金 | 向いている人 |
|---|---|---|
| シティサイクル(ママチャリ) | 800円 | 街歩き感覚で軽く走りたい人 |
| 電動アシストサイクル | 1,300円 | 茶畑や展望台の坂道を上りたい人 |
| クロスバイク | 1,800円 | スポーティに距離を走りたい人 |
| ロードバイク | 2,800円 | 本格的にサイクリングを楽しみたい人 |
嬉野のコースには茶畑を望む高台や展望台へと続く上り坂が多く含まれているため、坂道で足を止めたくないなら電動アシストサイクルを選ぶのが無難です。営業時間は11時から18時まで、定休日は水曜日および不定休となっているため、訪問前には最新の営業状況を確認しておくと安心でしょう。
電動アシスト自転車は、ペダルを踏む力をモーターが電動で補助する仕組みの自転車です。普通の自転車と同じ感覚で乗れて特別な免許も不要なので、普段あまり自転車に乗り慣れていない人でも当日すぐに走り始められます。ただし、モーターの補助が効くぶん発進時の加速がやや強く感じられることがあるため、最初の数分は交通量の少ない場所でハンドル操作に慣れてから茶畑エリアへ向かうと安心です。上り坂にさしかかる少し手前でアシストの強さを上げておくと、余計な体力を使わずに坂を上りきれます。
貸し出しでは、うれしの茶を淹れた専用ボトルを受け取ってから出発する「茶輪(ちゃりん)」という仕組みも用意されています。2019年4月に始まったこの取り組みでは、市内13店舗の茶商店が「茶葉ステーション」として登録されており、走行中にお茶のおかわりが欲しくなったら1杯200円でこれらの店に立ち寄れます。自転車を漕ぎながら茶処ならではの香りを楽しめる仕組みは、他の温泉地のレンタルサイクルにはあまり見られない嬉野らしさだと言えるでしょう。
嬉野コースは全長16.4キロ、景観評価は5段階中5
佐賀県観光連盟が運営する「SAGA Cycling CLUB.」では、初心者向けのポタリングコースとして「嬉野コース」を紹介しています。全長16.4キロメートル、走行の難易度は5段階中3、景観の評価とグルメの評価はどちらも5段階中5という評価がついており、体力に自信がなくても景色とグルメを重視したい人に向いたコースになっています。景観やグルメの評価が高いコースほど走行距離が長いとは限らず、短い距離でも見どころが密集していれば高い評価がつく仕組みになっているようです。初めてこうした評価を目にするなら、まず景観評価とグルメ評価の高いコースから選んでみると失敗が少ないでしょう。
コース内には上り区間がありますが、登り切った先の眺望はその分の価値があると案内されています。終盤には足を癒すための足湯が用意されているので、出発地点でレンタルした電動アシストサイクルをそのまま返却する前に、足湯で一息つく人が多いようです。
嬉野の外に目を向けると、長崎県東彼杵町と嬉野温泉を結ぶ「彼杵から嬉野温泉へのサイクリングコース」も選択肢に入ります。彼杵側の海沿いの茶畑と、嬉野側の山あいの茶畑という異なる表情を1本のルートで味わえる点は、県境をまたぐコースならではの面白さです。どちらのコースを選ぶかは、海の景色を重視するか、温泉街での滞在時間を長く取りたいかで決めるとよいでしょう。
嬉野・武雄・鹿島の3市町では、こうした自治体単位のモデルコースを合わせて12コース整備しています。マップに載っているQRコードを読み込めばGoogleマップ上でルートを確認しながら走れるので、土地勘がなくても迷いにくい構成です。
立岩展望台は海抜345メートルから茶畑と温泉街を見渡せる
茶畑エリアの目的地として特に人気が高いのが、海抜345メートルの高さにある立岩展望台です。シモムラサイクルズを出発し、茶畑の中の坂道を上っておよそ30分ほどで到着します。急な上りですが、電動アシストの力を借りればペダルが重くなりすぎず、上り切った瞬間の景色は嬉野サイクリングの中でも一番の見せ場になっています。
眼下には嬉野の温泉街と一面に広がる茶畑、そして遠くの山並みまで見渡せる広々としたパノラマが広がります。持参したうれしの茶を飲みながら、刻々と表情を変えていく茶畑をしばらく眺めているだけでも十分に旅の時間として成立するでしょう。風の強い日には木々の揺れる音まで聞こえてくることがあり、視覚だけでなく耳でも茶畑の広さを感じられる場所です。写真を撮るなら、朝の斜めから差し込む光が茶畑の畝の陰影をくっきりと見せてくれる時間帯が狙い目でしょう。効率よく観光地を回ることだけを目的にせず、ペダルを漕ぐ動作と目の前の景色に意識を向けてみる、という過ごし方も嬉野では提案されています。茶畑が広がる丘陵地帯は、見晴らしのよい高台ほど傾斜がきつくなる傾向があります。電動アシストのおかげで、景色のよさと引き換えに体力を使い果たすという心配をせずに済むのは、この地形だからこそのメリットだと言えるでしょう。
展望台から下りて温泉街に戻ったら、足湯で足を休めるのが定番の締めくくりです。嬉野温泉街には3か所の足湯があり、靴を脱いで足だけ浸かれる手軽さから観光客にも地元の人にも利用されています。靴と靴下を脱いでベンチに腰掛け、湯に足を浸すだけの手軽さなので、サイクリングウェアのままふらりと立ち寄れるのも嬉しいところです。長時間のペダリングで張ったふくらはぎが、じんわりとほぐれていく感覚は、走り終えたあとにしか味わえないご褒美と言えるでしょう。嬉野温泉は栃木県の喜連川温泉、島根県の斐乃上温泉と並んで「日本三大美肌の湯」に数えられており、ナトリウムを多く含んだとろみのあるお湯が特徴です。汗をかいたあとにこの湯へ足を浸けると、走った疲れが和らぎます。
うれしの茶交流館チャオシルは入館無料で茶摘み体験ができる
茶畑をただ通り過ぎるだけでなく、お茶についてもう少し知りたくなったら、2018年に開館した「うれしの茶交流館チャオシル」に立ち寄るとよいでしょう。嬉野茶の歴史や製茶の工程をパネルと映像で紹介しているほか、正しいお茶の淹れ方教室、嬉野温泉水を使った茶染め体験、茶摘み体験、さらには全国でもここでしか体験できないという焙じ茶の手もみ体験まで揃っています。
施設は岩屋川内地区にあり、JR武雄温泉駅からJR九州バスで約30分の場所にあります。開館時間は午前9時から午後5時まで、毎週火曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始が休館日です。入館そのものは無料で、個別の体験メニューだけが有料という手軽さもあり、サイクリングの休憩がてら気軽に寄れる施設になっています。
うれしの茶の品質を裏付けるように、全国茶品評会の第79回大会では、うれしの茶が「蒸し製玉緑茶の部」と「釜炒り茶の部」の両部門で産地賞日本一を受賞しました。丸みを帯びた茶葉が特徴の玉緑茶と、香ばしさが際立つ釜炒り茶はどちらも嬉野を代表する茶種で、茶葉ステーションや茶舗のティーラウンジで飲み比べてみる価値はあります。全国お茶まつりの関連企画として佐賀県内で予定されている「SAGA茶祭」や、東京都内の観光案内所で開催される「うれしの茶フェア」など、産地の外でうれしの茶に触れられる機会も増えています。
西九州新幹線なら博多から嬉野温泉駅まで約1時間
嬉野温泉へのアクセスは、2022年秋に開業した西九州新幹線によって大きく変わりました。最寄り駅の嬉野温泉駅は西九州新幹線区間で唯一の新幹線単独駅で、博多駅からは特急リレーかもめと新幹線かもめを乗り継いでおよそ1時間、長崎駅からは乗り換えなしで約20分という近さです。以前は車での移動が中心だった温泉街に、鉄道でも気軽に立ち寄れるようになったことで、日帰りでのサイクリング観光もしやすくなりました。
嬉野温泉駅から温泉街の中心部まではバスかタクシーで10分ほどです。車で訪れる場合は長崎自動車道の嬉野インターチェンジが最寄りで、周辺には観光客向けの駐車場も整備されています。新幹線に輪行袋で自分の自転車を持ち込むことも可能ですが、手ぶらで訪れて現地のレンタルサイクルを使うほうが身軽で、初めて嬉野を訪れる人にはこちらのスタイルが向いているでしょう。荷物が多い日は宿泊先やレンタルサイクル店で預かってもらえないか確認してから借りると、身軽な状態で坂道に挑めます。
豊玉姫神社の白なまずは美肌祈願の対象になっている
温泉街の中心部にある豊玉姫神社は、海神の娘とされる豊玉姫を祀る神社です。豊玉姫は竜宮城の乙姫とも言われ、富と権力、子孫繁栄、水の恵みをつかさどる神とされています。
境内にある「なまず社」は、豊玉姫の遣いとされる白なまずを祀っています。嬉野川に大なまずが住んでいるという言い伝えが昔からあり、美しい豊玉姫の遣いであることから「肌の病」にご利益があると信じられてきました。サイクリングで茶畑を巡る前後にここへ立ち寄り、美肌祈願をしてから出発する人も少なくないようです。神社のすぐ近くには公衆浴場シーボルトの湯があり、駐車場を共用しているため、車で訪れた場合も立ち寄りやすい立地になっています。シーボルトの湯は大正ロマンを感じさせる洋風建築が目を引く温泉街のランドマークで、1826年にシーボルトが嬉野を訪れ湯治をしたことにちなんで名付けられました。江戸時代から多くの旅人が立ち寄ってきた嬉野温泉の歴史を語るうえで、欠かせない逸話になっています。
サイクリング後の定番は温泉湯どうふとうれしの茶スイーツ
嬉野のサイクリングは景色を眺めるだけで完結するものではありません。温泉街の名物グルメといえば「温泉湯どうふ」で、嬉野温泉の湯で豆腐を煮込むと、湯に含まれる重曹成分の働きによって豆腐がとろとろに溶けるような食感に変化します。箸で持ち上げようとするとほろほろと崩れてしまうほど柔らかく、豆腐そのものの味というよりも出汁を含んだとろみを楽しむ料理と言ったほうが近いかもしれません。初めて食べる人は、その独特の食感に驚くことが多いようです。この温泉湯どうふを最初に提供したとされる老舗「宗庵よこ長」をはじめ、温泉街には湯どうふを名物とする飲食店がいくつも点在しており、サイクリングの合間に立ち寄って栄養を補給する人も多いようです。
嬉野はお茶の町らしく、うれしの茶を使ったスイーツやドリンクを出すカフェも充実しています。走ったあとの体は糖分を欲しがっているので、甘さの強いスイーツでも意外なほどするりと食べられてしまうものです。創業から歴史のある茶舗直営のティーラウンジでは、自社製の茶葉を使った抹茶ジェラートが人気を集めていますし、世界的なパティシエが監修したスイーツを扱う店や、温泉湯どうふを使ったスイーツを出す変わり種のカフェも見つかります。走ってお腹を空かせたあとに味わううれしの茶と温泉スイーツは、このエリアを電動自転車で巡ったからこそ味わえるご褒美と言ってよいでしょう。
電動クロスバイクなら武雄・有田まで足を延ばせる
嬉野だけで完結させず、隣接する武雄市・有田町まで足を延ばしたい場合は、3市町が連携する電動クロスバイクのレンタサイクル事業が使えます。3市町合わせて12台(各市町4台ずつ)の電動クロスバイクが駅や観光案内所などの拠点に配置されており、温泉と焼き物という異なる観光資源を1本の自転車旅としてつなげられるようになっています。
嬉野でお茶と温泉を楽しんだあと、電動クロスバイクで武雄温泉のシンボルである朱塗りの楼門を見に行ったり、さらに有田町まで走って窯元めぐりや器選びを楽しんだりと、1日で複数のテーマを味わえる周遊ルートが組めます。各市町の観光協会が作成したコースマップにはQRコードが付いているので、土地勘がなくてもGoogleマップでルートを表示しながら走れます。時間と体力に余裕がある人には、嬉野単体のコースよりもこちらの広域ルートのほうが満足度は高いかもしれません。
有田町の窯元めぐりが楽しいのは、有田焼そのものが長い歴史を持つ日本を代表する磁器の産地だからです。電動クロスバイクで窯元の並ぶ通りを走り、店先に並ぶ器を眺めながら気に入った一枚を探す時間は、嬉野の茶畑とはまた違った趣を旅に加えてくれるでしょう。値段や作風は窯元ごとに大きく幅があるので、複数の店を回ってから決めるくらいの気持ちで臨むほうが後悔は少ないはずです。自転車なら車のように駐車場所の心配をせずに気になった店の前でふらりと立ち止まれるので、車での窯元めぐりとはまた違った歩き方、いや走り方ができるところも魅力の一つでしょう。
新緑の季節は坂道でも走りやすく、市街地はほぼ平坦
嬉野の茶畑エリアを走るなら、新芽が芽吹き空気も澄んだ新緑の季節が特に走りやすいと案内されています。気温が穏やかなこの時期は、坂道を上っても汗の量が真夏ほどにはならず、走ること自体を楽しみやすいでしょう。嬉野の茶産地では例年4月下旬から5月にかけて一番茶の茶摘みが最盛期を迎えるため、このタイミングで訪れると茶畑が活気づいている様子も見られる可能性があります。
温泉街の市街地はほとんど平坦な地形なので、サイクリング初心者でも安心して走行できます。坂道が集中するのは茶畑や展望台へ向かう区間なので、そこだけ電動アシストの力を借りれば十分です。真夏に走る場合はこまめな水分補給と日差し対策が欠かせず、朝の涼しい時間帯か午後の日差しが和らぐ時間帯を選んで出発するのがおすすめです。動きやすい服装と、坂道でも踏ん張りやすいスニーカーを選べば、茶畑と温泉を巡るサイクリングを最後まで快適に楽しめます。
真夏を避けて訪れる場合でも、朝一番に電動アシストサイクルを借りて涼しいうちに茶畑と展望台を回り、暑さが厳しくなる昼過ぎからは温泉街に戻って足湯やカフェでゆっくり過ごすという組み立て方もおすすめです。日差しの強さは季節や時間帯によって大きく変わるので、天気予報を確認したうえで出発時間を前後させると、無理なく最後まで走り切れます。
初めて嬉野を訪れるなら、西九州新幹線で嬉野温泉駅に着き、温泉街で電動アシストサイクルを借りて豊玉姫神社とシーボルトの湯周辺を軽く回ってから茶畑エリアへ向かう、という順番が体力の面でも無理のない組み立てです。立岩展望台でお茶を飲みながら景色を眺め、下りてきたら足湯で足を休め、温泉湯どうふやうれしの茶スイーツで一息つく。体力が残っていれば電動クロスバイクに乗り換えて武雄や有田まで足を延ばし、最後は宿の湯にゆっくり浸かって一日を締めくくる。この流れをひとつ知っておくだけで、嬉野での一日はかなり組み立てやすくなるはずです。
日帰りで詰め込みすぎず、茶畑と展望台、温泉街、グルメのうち2つか3つに絞って余裕を持って回るのも一つのやり方です。電動アシストサイクルがあれば坂道での体力配分を気にしすぎる必要がなく、その分だけ景色を眺めたり茶葉ステーションで飲み比べたりする時間に回せます。事前予約が必要なレンタルサイクル店もあるため、訪れる日程が決まった時点で早めに連絡しておくと、当日は借りる手続きに時間を取られずに出発できるでしょう。
サイクリングという移動手段そのものが、電車や車では素通りしてしまうような茶畑の匂いや温泉街の路地の雰囲気に気づかせてくれます。坂を上る途中でふと足を止めて後ろを振り返ったときに見える景色こそ、一番印象に残ったという声も少なくないようです。次に嬉野を訪れるときは、いつもと少し違う道を選んで走ってみるのも面白いかもしれません。荷物はできるだけ最小限にまとめ、貴重品だけを身につけて出発すれば、途中で気になった茶葉ステーションやカフェにも気軽に立ち寄れます。








