京都府南丹市美山町にある芦生の森は、由良川の源流域に広がる約4,200ヘクタールの原生林です。美山町には由良川沿いを走る「美山かやぶき由良里街道」というサイクリングコースが整備されていて、かやぶきの里から芦生方面まで、里山の風景を楽しみながら走ることができます。電動アシスト自転車のレンタルを使えば、体力に自信がなくても由良川沿いをのんびり走れますし、芦生の森そのものはガイドツアーに参加することで、巨木が連なる神秘的な渓谷を歩けます。この記事では、美山のサイクリングコースの走り方から、芦生原生林の入林ルール、アクセス、季節ごとの見どころまでをまとめました。

芦生の森は由良川源流に広がる4,200ヘクタールの原生林
芦生の森は、京都府南丹市美山町の東部から福井県、滋賀県にまたがる、面積4,179.7ヘクタールの天然林です。由良川の源流域にあたり、冷温帯下部の天然林としては西日本でも屈指の広さを持っています。
この森は2016年に京都丹波高原国定公園に指定されました。指定の理由は、自然性が高くまとまりのある森林と、瀬や淵が連続する川があり、豊かな生態系が形成されているためです。日本海側と太平洋側の気候が入り混じる由良川源流域には、京都府の固有種であるアシウスギをはじめ、ブナやミズナラといった原生的な自然林が広がっていて、植物学者の研究対象にもなってきました。
森の中でも下谷と呼ばれるエリアには、芦生最大級のカツラの巨木があります。トチノキやサワグルミなど、湿った肥沃な土地を好む木々が谷筋に連なり、苔むした渓流と組み合わさって、独特の景観を作っています。芦生山の家のガイドは、こうした木々の一本一本について由来や特徴を説明してくれるので、ただ歩くだけでは気づけない森の奥行きを知ることができます。
こうした谷筋の植生は、由良川の水源を涵養する役割も担っています。湿潤で肥沃な土壌に根を張る巨木群が水をたくわえ、そこから染み出す清らかな水が、下流の美山町を流れる由良川の清流を支えています。サイクリングコースから眺める川の透明感の高さは、上流にこの原生林が広がっているからこそ成り立っているといえます。
芦生研究林への入林は京都大学認定ガイドツアーが条件
芦生の森は、正式には京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林と呼ばれ、京都大学が研究と教育の場として管理しています。そのため、一般の観光客が自由に歩き回ることはできません。入林するには、京都大学が認定した団体によるガイド付きツアーに参加する必要があります。
入林の手続きとしては、入林申請書の提出が求められます。利用は10人未満のグループ単位が原則で、申請は事務所または臨時の入林箱で受け付けています。当日の申請も可能とされていますが、ツアーの予約自体は事前に済ませておいたほうが安心です。芦生山の家では、地元の美山産食材を使った昼食付きのデイツアーや、JR園部駅からの送迎が付いたツアーなど、複数のプランが用意されています。
積雪や崩落の危険があるため、12月頃から4月中旬頃までの冬季期間は入林できません。逆に言えば、それ以外の期間であれば新緑や紅葉といった季節ごとの表情を楽しめるということです。新緑の時期は谷全体が緑のグラデーションに包まれ、紅葉の時期は赤や黄に染まった巨木が渓流に映り込みます。
芦生原生林にはツキノワグマやカモシカなど大型哺乳類が生息
芦生の森の価値は広さだけでなく、そこに暮らす生き物の多様さにもあります。大型哺乳類では、ツキノワグマ、カモシカ、ニホンジカ、ニホンザル、イノシシ、タヌキ、キツネ、アナグマ、ノウサギの生息が確認されています。小型哺乳類ではヤマネやムササビ、さらにクロホオヒゲコウモリなど、生物地理学や分類学の観点からも貴重な種が見つかっています。
鳥類の記録数はこれまでに33科111種にのぼります。コノハズク、ヤマセミ、アカショウビン、オシドリ、アオバト、キバシリといった森林性の鳥に加え、オオタカ、ツミ、ハイタカ、クマタカなどの猛禽類も生息しています。植物も1,000種を超える維管束植物が確認されていて、この生物多様性の厚みが、芦生の森を西日本屈指の原生林たらしめている理由です。
サイクリングで里山の風景を走ったあと、ガイドツアーでこうした生き物の暮らす森に足を踏み入れると、人の手が入った農村の景色と、手つかずの原生林という、性格の異なる二つの自然を同じ旅の中で体感できます。ツキノワグマをはじめとする野生動物が数多く生息する森だからこそ、地元を知り尽くしたガイドの同行のもとで歩くことに大きな意味があります。安全に配慮しながら深い森を楽しめるのは、こうした管理体制があってこそです。
美山かやぶき由良里街道は由良川沿いを走るサイクリングコース
美山町のサイクリングコースの代表格が「美山かやぶき由良里街道」という日本風景街道です。小野ダムを起点に、由良川に沿って茅葺き屋根の集落かやぶきの里を経由し、芦生の自然豊かなエリアまで続く道筋で構成されています。川のせせらぎを聞きながら里山の風景を楽しめるコースなので、サイクリング初心者からロングライド志向の人まで、幅広く親しまれています。
具体的なモデルコースとしては、かやぶきの里を中心に川沿いの桜並木をめぐる約20kmのコースが知られています。里山ののどかな風景と季節の花や紅葉を同時に味わえる点が魅力で、春には由良川沿いの桜とかやぶき屋根の組み合わせを狙って、多くの写真愛好家が訪れます。
サイクリングの出発点としてよく使われるのが「美山ふれあい広場」です。ここからかやぶきの里までは約6km、電動アシスト自転車ならおよそ40分で到達できます。ゆるやかなアップダウンはあるものの、電動アシストを使えば体力に自信がない人でも無理なく走れる距離です。美山町自然文化村を起点にすればかやぶきの里までは10分ほどとさらに近く、隣接する河鹿荘を宿泊拠点にすれば、日帰りに限らないサイクリング旅行も組みやすくなります。
輪行で現地入りするサイクリストも少なくありません。JR日吉駅や園部駅を起点に、由良川沿いを北上しながら美山町、かやぶきの里方面へ走る本格的なロングライドを楽しむ人もいます。起伏のある地形なので、体力や経験に応じてルートを組み立てることが大切です。
美山かやぶき由良里街道の魅力は、単に道が整備されているだけでなく、走りながら景色の切り替わりを楽しめる点にもあります。小野ダム周辺ではダム湖の静かな水面を眺められ、由良川沿いに進むにつれて川幅が狭まり、瀬や淵が連続する渓流らしい表情に変わっていきます。かやぶきの里に近づくと視界が開け、田園風景の向こうに茅葺き屋根の集落が見えてくるという、コースを走ること自体が一つの体験になるルート構成です。
電動アシスト自転車のレンタル料金は4時間2,000円から
サイクリングで多くの旅行者が利用するのが、美山ふれあい広場内にある京都丹波高原国定公園ビジターセンターのレンタサイクルです。ここでは電動アシスト自転車を貸し出していて、自分の自転車を持ち込まなくても手軽にサイクリングを始められます。
料金は、4時間までの利用で1台2,000円、これに保証金1台1,000円が加わります。営業時間の9時から17時まで、4時間以上フルに使う場合は1台3,000円です。人気が高く、予約は前日までの予約優先制なので、当日ふらっと立ち寄っても借りられるとは限りません。積雪期にあたる12月から3月まではレンタル自体が休止となるため、冬に美山町を訪れる際は事前の確認が欠かせません。
美山町内には他にもE-Bikeレンタルを提供する施設があり、京都市内から美山まで直接レンタサイクルで訪れるツアー形式のプランも用意されています。E-Bikeは由良川沿いのゆるやかな坂道や、かやぶきの里周辺の起伏をものともせず走れるので、写真撮影やのんびりとした里山散策を目的にする人にも向いています。
かやぶきの里は50戸中38戸が茅葺き屋根の重要伝統的建造物群保存地区
美山かやぶきの里は、北集落と呼ばれるエリアに約50戸の家屋が立ち並び、そのうち38戸が茅葺き屋根を保っている集落です。1993年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、日本の農村風景の原点といえる姿が保存されています。
サイクリングで訪れる場合は、集落内をゆっくり散策しながら、茅葺き民家の佇まいや田園風景、背後に広がる山の緑を楽しめます。季節ごとに表情が大きく変わるのもこの地域の特徴で、春は桜と新緑、夏は青々とした田んぼ、秋は紅葉と黄金色の稲穂、冬は雪化粧した茅葺き屋根と、一年を通じて違う魅力があります。
集落内には民家を改装した資料館やカフェ、土産物店も点在しています。サイクリングの合間に立ち寄って休憩したり、地元食材を使った軽食を楽しんだりできるので、由良川沿いのサイクリングロードとかやぶきの里を組み合わせれば、自然と文化の両方を一度に味わえる時間になります。
京都駅からかやぶきの里へは電車とバスで約2時間
公共交通機関を使う場合、京都駅からはまずJR山陰本線でJR日吉駅まで向かいます。所要時間はおよそ44分から52分です。日吉駅に着いたら南丹市営バスに乗り換え、「北(かやぶきの里)」バス停まで約40分から56分かかります。京都駅からかやぶきの里までは、電車とバスを乗り継いでトータル2時間ほどを見込んでおく必要があります。
かつては京阪京都交通バスによる京都駅からの直通便「京都美山線」も運行されていましたが、運行体制は便によって変わることがあるため、訪問前に最新の運行情報を確認しておくと安心です。
車を使う場合は、京都縦貫自動車道の丹波インターチェンジや園部インターチェンジから、国道9号や国道27号を経由するルートが一般的です。京都市内から車でおよそ1時間半から2時間かかります。マイカーやレンタカーで美山町まで移動し、現地でレンタサイクルを借りて周辺を巡るスタイルは、移動時間を効率よく使える方法として人気があります。
春の桜と秋の紅葉が美山サイクリングのベストシーズン
美山町と芦生エリアは、季節ごとにまったく違う魅力を見せます。
春の4月から5月は、雪解けとともに芦生の森が再び入林可能になる時期です。由良川沿いの桜や、かやぶきの里周辺の新緑が美しく、サイクリングには最も適した気候といえます。桜と茅葺き屋根の組み合わせを求めて訪れる写真愛好家も多い季節です。
夏の6月から8月は、深緑に覆われた芦生の森が最も生命力にあふれる時期です。由良川では川遊びも楽しめ、清流の冷たさが夏の暑さをやわらげてくれます。サイクリングは、早朝や夕方の涼しい時間帯を選ぶと快適に走れます。
秋の9月から11月は、紅葉の名所として芦生の森が賑わう季節です。巨木群が赤や黄に染まり、渓流とのコントラストが見事な景観を作ります。かやぶきの里周辺でも黄金色の稲穂と紅葉が重なり合い、サイクリングロードからの眺めも一段と美しくなります。
冬の12月から3月頃は、積雪のため芦生研究林への入林ができなくなる期間です。レンタサイクルの提供も休止されるため、サイクリングでの訪問には向きません。一方で、雪化粧したかやぶきの里には幻想的な雰囲気があり、冬季限定のライトアップイベントが行われることもあるので、サイクリング以外の目的なら冬の美山を訪れる価値も十分にあります。
大野ダム公園は桜1,000本の花見スポット
サイクリングの合間に立ち寄りたいスポットとして、まず挙げられるのが大野ダム公園です。美山町の入口付近にあるこの公園は豊かな自然を楽しめるレクリエーションスポットとして知られていて、春には約1,000本の桜が咲き誇る、美山でも屈指の花見の名所になっています。ダム湖畔を望む景観は休憩ポイントとしても向いていて、由良川上流域からかやぶきの里方面へ向かうルートの起点として使われることも多いスポットです。
グルメの面では、道の駅「美山ふれあい広場」内の直売所が見逃せません。地元農家が低農薬で育てた新鮮な野菜や、美山町ならではの名産品が手頃な価格で並んでいて、お土産探しにも便利です。美山町を代表する乳製品ブランド「美山牛乳」を使ったソフトクリームやジェラートを味わえる工房もあり、サイクリングで火照った体を冷ますのにちょうどよい一品です。
ランチスポットとしては、地元産のそば粉を使った手打ち蕎麦を出す「もく庵」や、家庭的な雰囲気で郷土料理を味わえる「お食事処よしの」の評価が高いです。かやぶきの里周辺や由良川沿いにはこうした食事処が点在していて、サイクリングの途中で気軽に立ち寄れます。
京都美山サイクルグリーンツアーは特産品のエイドステーションが魅力
美山町では地域を挙げたサイクリングイベントも開催されていて、サイクリングの聖地としての知名度をさらに高めています。「京都美山サイクルグリーンツアー」は、茅葺きの里で知られる京都美山エリアを丸ごと使ったロングライドイベントで、コース順が固定されていないため、大人から子どもまで自由なペースで楽しめます。エイドステーションでは美山の特産品が振る舞われるので、走ることだけでなく地域の味覚も楽しめる複合型イベントです。
「京都美山サイクルロードレース」は、1988年の京都国体を契機に始まった、公道を使用する希少なロードレースでした。四半世紀以上にわたり、初心者から競技志向の選手まで年齢や性別を問わず参加できるカテゴリー構成で開催され、最終開催時には1,100人を超える参加者を集める人気イベントに育っていました。こうしたイベントの積み重ねが、美山町を単なる観光地ではなく、サイクリスト文化の根付いた地域として育ててきた背景です。イベントの開催時期に合わせて訪れれば、いつもとは違う賑わいの中でサイクリングを楽しめます。
公道を長期間にわたって使い続けられたこと自体、美山町の道路が地域住民とサイクリストの双方から受け入れられてきた証といえます。イベントに参加しない時期でも、由良川沿いのコースは常に開かれているので、普段のサイクリングでレースさながらのコースの一部をなぞって走ることもできます。
ミヤマテラスやかやグラで泊まりがけのサイクリングも楽しめる
美山町は日帰りでも十分楽しめますが、朝夕の静かな里山の空気や満天の星空を味わうなら、宿泊を伴う旅程もおすすめです。由良川に臨むグランピング施設「ミヤマテラス別館リバーフロント」や、京都市内で和食店やイタリアンを営むシェフが手がけるグランピング施設「かやグラ」など、自然と食を組み合わせた宿泊スタイルが増えています。テントごとに異なるインテリアが用意されていて、キャンプ初心者でも快適に過ごせる点が支持されている理由です。
伝統的な宿を求めるなら、手作り料理が評判の「民宿美山」や、家族連れに人気で全室にWi-Fiが完備された「民宿みやま」も選択肢に入ります。古民家をリノベーションした一棟貸し宿「NIPPONIA美山鶴ヶ岡」をはじめ、かやぶき民家そのものに泊まれる一棟貸し施設も点在していて、茅葺き屋根の暮らしを一夜だけ体験することもできます。
こうした宿泊施設を拠点にすれば、初日はかやぶきの里周辺をサイクリングし、翌日は早朝から芦生の森のガイドツアーに参加するというように、二日間かけて美山・芦生エリアをじっくり満喫するプランも組みやすくなります。
美山サイクリングの注意点は交通量の多い区間と冬季休止
美山町でサイクリングをする際に押さえておきたい点がいくつかあります。由良川沿いの道路には交通量のある区間や見通しの悪いカーブがあるため、安全運転を心がける必要があります。観光シーズンは車の往来も増えるので、ヘルメットの着用と交通ルールの遵守が欠かせません。
芦生研究林への入林を希望する場合は、事前に入林申請の手続きを確認し、認定されたガイド団体のツアーに申し込む必要があります。無許可での立ち入りは研究林の保護の観点からも避けるべきで、正規の手続きを踏むことが重要です。
レンタサイクルは観光シーズンの週末に予約が埋まりやすいため、早めの予約をおすすめします。冬季はレンタルサービス自体が休止となる点にも注意しておきたいところです。
美山町は山間部にあるため、天候が急に変わることもあります。サイクリングやトレッキングを計画する際は、事前に天気予報を確認し、雨具や防寒具を用意しておくと安心です。
美山でのサイクリングコースを考えるときは、かやぶきの里までの往復だけで終わらせず、大野ダム公園や道の駅、美山町自然文化村といった立ち寄りスポットを組み合わせるのがおすすめです。自分の体力や興味に合わせてルートを調整すれば、里山の風景と芦生原生林という、京都府内でも珍しい二つの自然を一度の旅で味わえます。電動アシスト自転車を使えば移動の負担は小さく、芦生の森のガイドツアーと組み合わせることで、日帰りでも宿泊を伴う旅でも、それぞれのペースで美山と芦生を満喫できるはずです。








