群馬・八ッ場ダムの廃線跡をたどる30kmサイクリングコース

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群馬県の八ッ場ダム周辺には、廃線跡を活用したレールバイクや渓谷美を楽しめる、約30kmのサイクリングコースがあります。起点となる道の駅八ッ場ふるさと館からダム湖畔、吾妻峡、旧太子駅を経てぐるりと回る設計で、電動アシスト自転車を選べば初心者でも走りきれます。この記事では、コース上の見どころとアクセス方法、走行時に押さえておきたいポイントをまとめました。

目次

八ッ場ダムと廃線跡を結ぶ30kmコースは初心者にも走れる設計

このコースの魅力は、ダム湖の景観と鉄道遺産をひとつのルートで巡れる点にあります。定番となっているのは、道の駅八ッ場ふるさと館またはJR川原湯温泉駅周辺をスタート地点とし、やんば見放台、八ッ場ダム堤体、八ッ場あがつま湖畔、吾妻峡、アガッタン(吾妻峡レールバイク)、旧太子駅、川原湯温泉、道の駅八ッ場ふるさと館という順に立ち寄り、スタート地点に戻るか最寄り駅でゴールするルートです。

コース全体は比較的緩やかな区間が多く、ミニベロやレンタサイクルでも走れる設計になっています。ただし山間部の勾配やダム湖周辺の一部区間には急な坂道もあるので、体力に不安がある場合は電動アシスト自転車を選んだほうが安心でしょう。走行時間はスポットへの立ち寄り方次第で変わりますが、休憩や見学を含めて半日から1日を見込んでおくとゆとりを持って回れます。

アガッタンは廃線敷きを使ったレールバイクで片道3000円から

コース最大のハイライトは、東吾妻町で運行している吾妻峡レールバイク「アガッタン」です。八ッ場ダムの建設に伴って付け替えとなったJR吾妻線の旧線路、いわゆる廃線敷きを活用した自転車型トロッコで、国指定名勝の吾妻峡を眼下に見ながらペダルを漕いで進みます。コースの途中には、かつて日本一短い鉄道トンネルとして知られていた樽沢トンネルもあり、鉄道好きなら見逃せないポイントです。樽沢トンネルは全長7.2メートルで、戦時中の突貫工事によって1946年に完成しました。岩島駅と川原湯温泉駅の間にあった旧線は、八ッ場ダム建設に伴うルート付け替えで2014年9月24日に営業運転を終了し、2020年7月中旬からはアガッタンのコースとして生まれ変わっています。

料金は乗車人数によって変わります。3人乗りは片道3000円、往復5000円。4人乗りは片道3500円、往復6000円で、支払いは現金のみとなっています。運行期間は例年3月下旬から12月上旬頃までで、冬季は運休となる点は覚えておいたほうがよいでしょう。問い合わせの受付時間は8時30分から17時15分までです。

週末や連休は予約だけで埋まってしまうことも珍しくないので、訪問を計画する段階で公式サイトから予約を済ませておくのが無難です。サイクリングの走行計画も、アガッタンの乗車時間に合わせて逆算して組み立てると、当日慌てずに済みます。

八ッ場あがつま湖のエメラルドグリーンは湖底の地質が生む色

八ッ場ダムの完成とともに生まれた人造湖が八ッ場あがつま湖です。地元では「八ッ場グリーン」と呼ばれるエメラルドグリーンの湖面が特徴で、湖底の地質や水中の微粒子の影響でこの色合いが生まれているとされています。天候や太陽光の角度によって色味が変わるため、訪れる時間帯によって違う表情を見せてくれます。

湖畔では水陸両用バスに乗ってそのまま湖に入り、水上からダムを眺めるツアーのほか、カヌーやカヤック、SUPといった穏やかな水面を活かしたアクティビティも用意されています。キャンプ場やバーベキュー施設、公園も整備されているので、サイクリングの休憩がてら湖畔でひと息つくのもおすすめです。

吾妻峡は雁ガ沢橋から八ツ場大橋まで3.5kmの国指定名勝

アガッタンが通り抜ける吾妻峡は、1935年12月24日に国指定名勝となった渓谷で、「関東の耶馬渓」とも呼ばれています。吾妻川に架かる雁ガ沢橋から八ツ場大橋までの約3.5キロメートルにわたって続いており、切り立った岩肌と川の流れが四季を通じて美しい景観をつくっています。大昔に火山が噴き出した溶岩を吾妻川の水が長い年月をかけて浸食してできたと考えられていて、特に紅葉の時期は多くの観光客で賑わうスポットです。

渓谷内には屏風岩、鹿飛(しかとび)、鹿飛橋、八丁暗がり、紅葉台、白絹の滝、大蓬莱と小蓬莱といった見どころが点在しています。なかでも八丁暗がりは川幅4メートル、深さ50メートルにも及ぶ深淵で、渓谷最大の見どころとされています。川原湯温泉からは約1.8キロメートルの探勝遊歩道が整備されていて、渓谷沿いをハイキング感覚で歩くことも可能です。紅葉台橋のたもとから遊歩道を約25分ほど進むと見晴らし台に着き、眼下に八ッ場ダムを望む景色が広がります。サイクリングの合間に自転車を停めて、遊歩道の一部だけでも歩いてみると、渓谷の岩壁や川のせせらぎを間近に感じられるでしょう。

八ッ場あがつま湖には不動大橋と八ッ場大橋という2つの橋が架かっていて、どちらも湖とダムを見渡せる撮影スポットになっています。なかでも不動大橋は、たもとにある不動の滝とセットで紅葉シーズンの撮影地として知られており、橋の上から滝全体とダム湖を一望できます。川原湯温泉駅からも近いので、コースの序盤か終盤に組み込みやすい立地です。

旧太子駅は1971年廃止の太子線を今に伝える産業遺産

中之条町と東吾妻町にまたがってかつて存在した太子線(おおしせん)の廃線跡と、その終着駅だった旧太子駅も、このコースに厚みを加えるスポットです。太子線は1945年、日本製鉄群馬鉄山で採掘された鉄鉱石を輸送する専用線として開業しました。終着駅の旧太子駅は長野原草津口駅から北西に5.8キロメートルほど離れた場所にあり、群馬鉄山は1944年から1971年までの間、大量の鉄鉱石を産出して戦後の日本の工業復興を支えていました。戦後は貨物輸送に加えて旅客営業も行われましたが、鉄鉱石の輸送が終わったことで1971年に廃止されています。

旧太子駅の駅舎やホーム、線路は2018年以降に整備・復元され、往時の姿を今に伝えています。なかでも鉄鉱石の積み出しに使われていた巨大なコンクリート製のホッパーは、産業遺産としての存在感が際立つ建造物です。石積みのホームや線路の終端部など、当時の遺構が随所に残っており、鉄道好きだけでなく近代産業史に関心がある人にも訪れる価値があります。景勝地巡りだけで終わらせず、この旧太子駅を組み込むことで、地域の近代史に触れる奥行きのある旅程になります。

川原湯温泉は800年の歴史を持つ温泉地がダムで高台に移転

川原湯温泉は約800年の歴史を持つ共同浴場を中心とした温泉地でしたが、八ッ場ダムの建設で温泉街そのものが水没することになり、住民や旅館は高台への移転を余儀なくされました。移転後も温泉地としての営業は続いていて、日帰り入浴が可能な施設や宿泊施設が点在しています。長い距離を走った後に、この温泉で疲れを癒せるのはこのコースならではの楽しみ方でしょう。

川原湯温泉駅も、吾妻線の駅としてダム関連の付け替え工事にあわせて新しい場所に移設された経緯を持っています。サイクリングの休憩地点として立ち寄り、移転の歴史に思いを馳せながら過ごす時間も、このエリアを走る意味のひとつになるはずです。

このエリアは1783年の浅間山噴火とそれに伴う天明泥流による被害の記憶とも結びついています。同年8月5日に発生した泥流は吾妻川沿いの村々を一瞬にして埋め尽くし、群馬県内だけで1,400名を超える犠牲者を出す大災害となりました。その歴史を伝える「やんば天明泥流ミュージアム」が周辺に設けられていて、26年間に及ぶ発掘調査の成果をもとに、当時の暮らしや噴火から泥流発生に至る過程を紹介しています。ダム湖や渓谷の景観の背後には、自然災害と人々の営みが幾重にも重なった歴史があることを、走りながら感じ取れるかもしれません。

八ッ場ダムは1952年の調査開始から68年かけて2020年に完成

八ッ場ダムは吾妻川の中流域に建設された、群馬県内で最も新しいダムです。目的は利根川水系の洪水調節、流水の正常な機能の維持、首都圏を含む関係都県への上水道・工業用水の供給、発電など多岐にわたり、いわゆる多目的ダムに分類されます。型式は重力式コンクリートダムで、堤高116メートル、堤頂長290.8メートル、総貯水容量は107,500千立方メートルという規模を持ち、事業費は約5,320億円にのぼります。堤体上や後述するやんば見放台からは、この巨大な構造物と周囲の山々に囲まれたダム湖の景観を一望できます。見学は無料で、駐車場も整備されているのでサイクリングの休憩ポイントとしても使いやすい場所です。

計画は1952年の調査開始にさかのぼり、68年という長い年月を経て2020年の運用開始にたどり着きました。建設予定地には約340世帯が暮らしており、水没を伴う移転計画は地元を賛成派と反対派に二分するほどの対立を生みました。吾妻川流域は温泉地帯特有の強酸性の水質だったため、草津中和工場から中和剤を投入し続けることで水質問題を解決するなど、技術的な課題も数多く乗り越えて建設が進められています。

政治的にも大きな転換点がありました。2009年に発足した民主党・鳩山政権のもとで建設は一時中止という決定が下されましたが、2012年に自民党が政権に復帰し、安倍政権下で建設が再開されています。平成26年8月に本体工事の請負契約が締結され、平成28年6月からコンクリート打設が始まり、令和2年3月31日にダム本体が完成、翌4月1日から正式な管理体制に移行しました。半世紀以上に及ぶ経緯の末に生まれたこのダムと周辺エリアには、観光地としての魅力だけでなく、地域の歴史そのものが刻まれています。

やんば見放台は、八ッ場ダム全体を見渡せる無料の展望スポットです。ダムを見下ろす高台にあり、堤体とダム湖を一枚の景色として眺められます。展望台には平和の鐘と呼ばれる鐘が設置されていて、訪れた記念に鳴らすこともできます。無料の駐車場も併設されているので、車での来訪者に加えて、サイクリングコースの一部としても組み込みやすい立地です。

ダム敷地内の「なるほど!やんば資料館」では、ダムの構造や歴史を紹介する展示に加えて、来訪者向けのダムカードを自動配布機で受け取れます。ダムカードは平成19年から国土交通省と水資源機構が配布している人気の記念カードで、表面にダムの写真、裏面にダムの形式や貯水池の容量といった情報が載っています。八ッ場ダムは令和6年8月23日に来訪者100万人を達成し、その記念としてスペシャルダムカードが配布されたこともあり、ダム巡りを楽しむ層からも注目を集めているダムです。道の駅八ッ場ふるさと館でも営業時間内にカードを受け取れるので、サイクリングの休憩を兼ねて立ち寄る価値があります。ダムの天端を歩いて渡れるほか、エレベーターで堤体の真下まで下りられる点も、他のダムにはない体験として人気の理由になっています。

レンタサイクルは川原湯温泉駅キャンプ場と道の駅で借りられる

マイバイクを持ち込まなくても、このエリアはレンタサイクルでコースを楽しめます。川原湯温泉駅キャンプ場では電動アシスト自転車を含むレンタサイクルを提供していて、道の駅八ッ場ふるさと館までは約9分、八ッ場ダム堤防までは約19分というアクセスのよさが魅力です。料金は2時間以内の利用で1,000円、1日利用(3時間以上)で2,000円となっています。

道の駅八ッ場ふるさと館と川原湯温泉あそびの基地NOAでも、電動自転車8台と子供用普通自転車2台が用意されていて、家族連れでも気軽にダム周辺のサイクリングを楽しめる体制が整っています。坂道の多い区間もあるコースなので、体力に自信がない場合や家族連れの場合は、電動アシスト自転車を選ぶことで無理なく30kmを走りきれるでしょう。台数には限りがあるので、繁忙期は事前に貸出状況を問い合わせておくと安心です。

アクセスは関越道渋川伊香保ICから国道353号・145号経由

車で訪れる場合は、関越自動車道の渋川伊香保インターチェンジから国道353号・145号を経由するのが一般的なルートです。都心方面からは高速道路利用で2時間半から3時間程度が目安になります。

公共交通機関を利用する場合は、JR吾妻線の川原湯温泉駅や長野原草津口駅が最寄り駅です。輪行での訪問も可能で、電車を降りてすぐにサイクリングを始められる利便性があります。レンタサイクルを使う場合は、道の駅や周辺の観光案内所で貸し出しの有無を事前に確認しておくとよいでしょう。

群馬県は、ぐんまのサイクリングロード一覧として県内の自転車・歩行者専用道路を公式サイトで案内しており、高崎伊勢崎自転車道や渡良瀬川自転車道、利根川自転車道といった大規模なサイクリングロードも整備されています。八ッ場ダム周辺のこのコースはこれらの指定サイクリングロードとは別に、一般道を中心に走るルートですが、群馬県全体がサイクリング振興に力を入れている地域だと知っておくと、旅程を組む際の選択肢も広がるはずです。

このコースは、隣接する嬬恋村方面のつまごいパノラマラインとルートをつなげて走ることもできます。パノラマラインは高原地帯特有の開放的な景観が魅力で、八ッ場ダム方面から足を延ばせば、渓谷美と高原の眺望という異なるタイプの景色を一度の旅で味わえます。体力や日程に余裕があれば、こうした周辺ルートとの組み合わせも検討してみる価値があるでしょう。

走行のベストシーズンは紅葉なら10月下旬から11月中旬

このコースは山間部を走るため、季節や天候による影響を受けやすい区間です。冬季はアガッタンが運休となるので、レールバイク体験を目的にするなら3月下旬から12月上旬までの運行期間内に訪問時期を合わせる必要があります。

紅葉シーズンにあたる10月下旬から11月中旬頃は、吾妻峡の渓谷美が一年でもっとも美しくなる時期です。多くの観光客で賑わうため、道路や駐車場の混雑には注意したほうがよいでしょう。反対に新緑の季節や初夏は比較的空いていて、ゆったりとサイクリングを楽しめる時期としておすすめできます。

山間部特有の気候として、朝晩と日中の気温差が大きいことも念頭に置き、脱ぎ着しやすい服装で臨むとよいでしょう。ダム湖周辺や渓谷沿いの道は日陰が少ない区間もあるので、水分補給用のボトルや日焼け対策も忘れずに準備しておきたいところです。アガッタンを組み込む場合は、事前予約に加えて、集合時間に間に合うよう走行計画に余裕を持たせることが大切になります。

グルメは道の駅の八ッ場ダムカレーと川原湯温泉の老舗宿が定番

長野原町エリアには和食や居酒屋、焼肉・ステーキなど、地元の食材を活かした飲食店が点在していて、ロングライドの合間に立ち寄って地域の味を楽しめます。川原湯温泉には「飲、食、宿 吾八(ごはち)」のように、宿泊と食事を兼ねた老舗の温泉宿も残っていて、名物料理とともに温泉地としての雰囲気を味わえます。

コース内の重要な休憩ポイントが道の駅八ッ場ふるさと館です。国道145号線沿いにあり、天然温泉を利用した無料の足湯が設置されているので、サイクリング中の疲れた足を癒すのに向いています。館内には地元の農産物を販売する直売所「八ツ場市場」があり、営業時間は8時30分から18時まで(冬期は17時まで)となっています。春は山菜、夏はキャベツやレタス、トウモロコシといった高原野菜、冬は白菜や大根など、季節ごとの旬の野菜のほか、草津や北軽井沢地方の特産品である花豆も並びます。「八ッ場食堂」の営業時間は9時30分から17時30分(冬期は16時45分まで)で、名物の八ッ場ダムカレーはダムの堤体をイメージしたビジュアルで人気を集めており、焼き立てパンも目玉商品のひとつです。長距離サイクリングの途中で昼食を取りながらエネルギーを補給するライダーも多いようです。地元産の高原野菜や川魚料理も、このエリアならではの食としてあわせて味わっておきたいところです。

八ッ場ダムと廃線跡を巡る群馬県のこのコースは、ダム建設という半世紀以上に及ぶ事業の歴史と、そこから生まれ変わった鉄道遺産、雄大な自然景観がひとつにまとまったルートです。エメラルドグリーンの八ッ場あがつま湖、廃線を活用したアガッタン、国指定名勝の吾妻峡、産業遺産としての旧太子駅、移転の歴史を持つ川原湯温泉と、立ち寄る先ごとに異なる物語が刻まれています。比較的走りやすい設計なので、本格的なサイクリストだけでなく、家族旅行や観光目的での利用にも向いています。アガッタンの予約状況や運行期間、季節ごとの見どころを事前に確認したうえで訪れれば、このエリアならではの歴史と自然を楽しむサイクリングになるでしょう。

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