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室戸岬を自転車でめぐるなら、阿佐海岸鉄道の甲浦駅を出て室戸岬を回り、奈半利駅まで走る約80kmのコースがあります。道のりのほとんどは、海岸線に沿って延びる国道55号になります。高知県の東の端に突き出たこの岬は室戸ユネスコ世界ジオパークの中心にあり、コースは海岸段丘に沿って続きます。
自転車を止めれば、見どころは地形だけにとどまりません。若き空海がこもったと伝わる洞窟があり、四国八十八ヶ所の札所が建ち、備長炭で栄えた町並みも残っています。金目鯛や海洋深層水を使った特産品もあります。

国道55号で甲浦駅から奈半利駅まで約80km、獲得標高は約570m
このコースの獲得標高は約570mで、きつい坂は2か所に集まっています。沿岸部はほぼ平らに進めますが、最御崎寺と金剛頂寺の近くには急坂があります。
佐喜浜の付近には、集落がほとんど見当たらない断崖沿いの区間もあります。また、室戸岬を過ぎるまでコンビニは1軒もありません。甲浦駅から走り出すなら、岬に着くまでの食べ物と飲み物をどこで手に入れるか、出発前に決めておく必要があります。
道の駅キラメッセ室戸・食遊鯨の郷を休憩地点にする
休憩と補給の拠点として使えるのが、室戸市吉良川町の道の駅キラメッセ室戸・食遊鯨の郷です。営業時間と休業日は曜日や季節によって変わります。寄るつもりなら、その日に開いているかを先に確かめておきましょう。
奈半利駅を起点にする場合はバスで室戸岬へ
逆に奈半利を起点にする方法もあります。高知東部交通バスを使えば、土佐くろしお鉄道の奈半利駅から室戸岬まで行けます。自転車で走る人のためのサポート情報や地図は、こうち旅広場などで配られています。
室戸岬と道の駅までの所要時間
移動にかかる時間と距離の目安は、下の表のとおりです。
| 出発地 | 行き先 | 手段 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 奈半利駅 | 室戸岬 | 高知東部交通バス | 約50分から60分 |
| 芸西西IC | 室戸岬 | 車 | 約1時間10分から20分 |
| 高知自動車道の南国IC | 道の駅キラメッセ室戸・食遊鯨の郷 | 車(国道32号から国道55号を室戸方面へ) | 75km |
| 室戸岬 | 道の駅キラメッセ室戸・食遊鯨の郷 | 車 | 約15分 |
国道55号は大雨で通行止めになり、山側には室戸スカイラインが通る
海のすぐそばを走る国道55号では、大雨などで危険と見なされた時点で通行が止められる場合があります。規制がかかったときは、案内される迂回路を走ります。出かける前に道路情報を見ておけば、当日あわてずに済むでしょう。
岬の背後の尾根には、県道203号(室戸公園線)が走っています。室戸スカイラインと呼ばれるこの道は、今も観光ルートとして使われています。標高145mにある室戸岬灯台の展望台へも、こちらから上がれます。歩いて向かう場合は、へんろ道を通って室戸岬バス停から約20分から30分です。岬と灯台を、電動アシストのレンタサイクルで回る楽しみ方もあります。
室戸は2011年に世界ジオパークに認定され、2018年と2023年に再認定された
ジオパークは、地質や地形から地球の過去を知り、これからを考えて活動する場所を指します。Geo(地球・大地)とPark(公園)をつないだ言葉で、日本語では「大地の公園」と訳します。地球科学的に意義のある場所を、保護と教育、持続可能な開発をあわせた考え方で管理する、ひとまとまりのエリアのことです。
日本ジオパークとユネスコ世界ジオパークの2種類がある
国内で使われている認定は2つです。ひとつは日本ジオパーク委員会が国内向けに認める「日本ジオパーク」、もうひとつが国際的な「ユネスコ世界ジオパーク」になります。
世界の認定の仕組みは2015年に切り替わりました。それまで審査と認定を担っていたのは、2004年にユネスコの支援で立ち上がった世界ジオパークネットワークです。2015年にユネスコの正式事業となってからは、審査をユネスコ世界ジオパーク・カウンシル、認定をユネスコ執行委員会が受け持っています。2025年10月時点で、日本のユネスコ世界ジオパークは10地域でした。
室戸の認定から2度の再認定まで
室戸が世界ジオパークに決まったのは、2011年9月にノルウェーで開かれた国際会議でした。日本時間でいえば、2011年9月18日の朝4時過ぎです。
2018年には日本ジオパーク委員会が、洞爺湖有珠山ユネスコ世界ジオパークとあわせて、室戸ユネスコ世界ジオパークを再び認定すると決めました。2023年9月には第8回ユネスコ世界ジオパーク・カウンシルがモロッコのマラケシュで開催され、そこでも室戸の再認定が決まっています。室戸ジオパーク推進協議会は会報で、この結果を「グリーンカード」と呼びました。
室戸岬の大地は四万十帯の付加体でできている
室戸の地質の土台は、四万十帯の付加体です。南海トラフへ海洋プレートが沈み込む動きによって形づくられました。地質学者の調査で付加体だと世界で初めて確かめられた地層群として紹介されているのが、室戸を含む四万十帯です。
付加体と室戸層群
付加体ができるのは、海溝の陸側です。海溝とは、大陸プレートの下へ海洋プレートが潜り込んでいく境目を指します。沈み込むプレートの表面にのっていた堆積物が削ぎ取られ、陸側へ次々と付け加わっていきます。海溝の近くに集まった陸由来の堆積物と深海底の堆積物が、付加作用と変形作用を受けてできあがるわけです。
海溝と直交する向きで切った断面がくさび形になるため、付加プリズムという呼び名もあります。英語名はaccretionary prismやaccretionary wedgeです。日本列島も大部分が付加体でできているとされます。西南日本の例としては、秋吉帯や美濃・丹波帯、四万十帯があります。
室戸半島の地層は、四万十帯のなかの室戸層群にあたります。海溝の側にたまった堆積物をはがしながら積み上がった地層で、「引き剥がし付加体」に分類されています。
砂岩と泥岩、そしてタービダイト
岩の主役は砂岩と泥岩、それに両者が交互に重なった砂岩泥岩互層です。変形構造としては砂岩脈や褶曲があり、タービダイトも見つかります。堆積してから隆起するまでの各段階で起きた流体の移動や変形の跡が、岩に残っているという報告もあります。
タービダイトは、混濁流(乱泥流)が海底に残していった地層です。流れの勢いが落ちると粗い粒から先に海底へ沈むので、級化層理ができます。こうして、級化層理をもつ砂岩層と泥岩層がリズムよく重なった互層が生まれます。
1回の混濁流が残す単層を下から見ると、級化層理部、下部平行葉理部、斜交葉理部、上部平行葉理部、泥質部と5つの層準が重なっています。この重なりの名前がブーマ・シーケンスです。もっとも、実際に多いのは級化層理部と泥質部だけのものだとされています。級化層理は、地層のどちらが上かを見分ける手がかりにもなります。
岬の先端にある斑れい岩
岬の先端には斑れい岩の貫入体があります。1400万年前から1500万年前に起きた火成活動によるものとされています。
マグマが冷えて固まった岩石は、安山岩や流紋岩のような「火山岩」と、斑れい岩や閃緑岩のような「深成岩」に分かれます。斑れい岩は深成岩の仲間で、英語ではgabbroと呼びます。国際地質科学連合(IUGS)の定義では、深成岩は構成鉱物がおおむね3mm以上の大きさをもち、肉眼で粒が見分けられる粗い岩石です。典型的な貫入岩は深成岩で、火山岩と対になる存在といえます。
海成段丘は氷河性海水準変動と約2m/kyrの隆起でできた室戸の地形
室戸を象徴する地形は、海成段丘です。成り立ちは2つの要因で説明されています。ひとつは更新世の氷河性海水準変動、もうひとつは地震による隆起で、その速さは平均約2m/kyr(1000年あたり約2m)です。
海成段丘とは、波の侵食で海食崖や海食台ができ、その後の地盤の隆起や海水準の変動によって陸側へ持ち上げられた地形を指します。隆起のペースが遅い場所では、できた段丘の多くが海面の下に沈んだままで、観測できません。昔の段丘を調べていけば、隆起と地震の履歴を復元できます。
室戸岬には、過去約1万年の巨大地震で持ち上がった跡として、離水した海岸地形が残ります。岬で見つかったのは、波の侵食でできた切れ込みであるノッチと、生物の巣穴が残る石灰岩です。これらを炭素14年代測定にかけ、隆起した年代が推定されてきました。
室津の港の上には町が広がっていて、港との間にはっきりした高低差があります。この段差も、地震で地面が持ち上がって生まれたものです。
乱礁遊歩道は約2.6km、歩いて岬の地質と伝承をたどる
乱礁遊歩道は全長約2.6kmで、岬の海岸沿いを中岡慎太郎像から室戸青年大師像までつないでいます。空海が修行した場所と、地質のおもしろい地点を一本の道でたどれるコースです。途中には、地震による隆起を伝える「昔の海の高さ」の解説板が立っています。子授けの石やエボシ岩、ビシャゴ岩も、地質の面から見て興味をひかれる場所です。
奇岩が並び立ち、海辺の植物が生い茂る室戸岬の景色は、国の名勝になっています。周辺一帯は室戸阿南海岸国定公園にも入っていて、見どころには、アコウなどの亜熱帯性樹林もあります。
国定公園は環境大臣が指定し都道府県が管理する
国定公園を指定するのは環境大臣で、国立公園に次ぐ景勝地が対象になります。管理は、公園のある都道府県が担います。
中岡慎太郎像と室戸世界ジオパークセンター
国道55号の脇に立つのが中岡慎太郎像です。中岡慎太郎は坂本龍馬とともに近江屋で襲われた志士で、像は石垣の上から大海原を見渡すように建っています。昭和10年に青年団が建てたものとされます。像の裏手の階段を上がると展望台があり、室戸岬と太平洋が一度に見渡せます。
岬を散策する前に寄っておきたいのが、室戸世界ジオパークセンターです。開館時間は9時から17時で、入館料はかかりません。館内のジオシアターは大型スクリーンつきで、グッズの販売や各種ツアーの案内もしています。ガイドツアーには、段ノ谷山や吉良川まちなみなどを訪ねるコースもあります。南海トラフ地震への備えを体験しながら学べる環境・防災学習プログラムも用意されています。無料駐車場は44台(うち大型5台)で、トイレとWi-Fiも使えます。
御厨人窟と最御崎寺には空海の修行と開山の伝承が残る
室戸岬は、若き空海が修行した土地として伝わっています。御厨人窟と最御崎寺、灌頂ヶ浜に、その伝承が残ります。
御厨人窟で修めた虚空蔵求聞持法
御厨人窟は、室戸岬の東側、国道55号の山側にある海蝕洞です。空海はここにこもり、虚空蔵求聞持法を修めたと伝えられています。洞窟から見えるのは空と海だけで、その眺めから「空海」の法名を得たという話が残っています。洞内には入れません。
虚空蔵求聞持法は密教の修法の一つで、目的は記憶力と知恵を身につけることにあります。決まった作法に従い、虚空蔵菩薩の真言を百日かけて百万回唱えます。修めた行者は、あらゆる経典を覚えて理解し、二度と忘れないといいます。空海がこうして唱え終えたとき、明星と呼ばれる光が口へ飛び込んできたという伝承もあります。
この修法で本尊とする虚空蔵菩薩は、胎蔵曼荼羅のうち虚空蔵院の中心に座る主尊で、密教のなかでも重んじられてきました。名前のもとになったのはサンスクリット語の「アーカーシャガルバ(虚空の母胎)」で、限りない智慧と慈悲をおさめた菩薩を表します。
四国八十八ヶ所の第24番札所、最御崎寺
四国八十八ヶ所で第24番の札所になっているのが最御崎寺です。開山は807年(大同2)で、開いたのは弘法大師(空海)と伝わります。土佐国では最初の札所で、金剛頂寺を西寺と呼ぶのに対して、こちらは東寺の名でも知られています。その後、嵯峨天皇の勅願によって空海が本尊の虚空蔵菩薩を彫り上げ、寺を開いたとされます。
江戸時代まで、この寺は女人禁制でした。明治初年の廃仏毀釈と神仏分離令で荒れ果てましたが、大正3年に再興されています。
廃仏毀釈とは、仏教を退けようとする運動のことで、明治初年、神道を国教にしようとする政府の政策を背景に広がりました。きっかけは慶応4年(1868)の神仏分離令です。これが出たあと、平田派の国学者である神官たちを中心に、仏堂や仏像、仏具、経文などが壊されたり燃やされたりしました。
神仏分離令は、王政復古と祭政一致の考え方に立ち、共存していた寺院と神社を区別することが狙いでした。廃仏毀釈を命じたのは新政府ではありません。江戸幕府のもと、寺請制度で幕府に仕える立場にいた寺院を快く思わない地方の神官や国学者らがあおったことで、運動は激しくなっていきました。
灌頂ヶ浜と明星来影寺
灌頂ヶ浜は岬の突端にある浜で、空海がここで灌頂の儀式をしたと伝わります。すぐ近くの明星来影寺には、国内で2番目の大きさとされる大師像があります。
灌頂とは、密教の世界で弟子を迎え入れ、教えと法脈を引き継ぐための儀式です。語源はサンスクリット語のabhiṣekaです。起こりはインドで、国王の即位にあたって四大海の水を頭に注ぐ儀式でした。大乗仏教に入ると、仏位を継ぐことを指すようになります。密教の灌頂では、受者に五瓶の水を注ぎます。五瓶は如来の五智を表すもので、この水によって密教の法燈が受け継がれます。護摩修法と並んで重要な、密教独自の法儀です。
灌頂には次の3種類があります。
| 種類 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 結縁灌頂 | 在家の人々 | 曼荼羅の中の一尊と縁を結ぶ |
| 受明灌頂 | 出家者 | 初歩的な灌頂 |
| 伝法灌頂 | 阿闍梨となる者 | 真理を伝える |
日本で最初の灌頂とされるのは、空海が812年(弘仁3)、高雄山寺で金剛界と胎蔵界の両部について行ったものです。
吉良川の町並みは1997年に高知県初の重要伝統的建造物群保存地区へ
国の重要伝統的建造物群保存地区に、高知県で最初に選ばれたのが吉良川町で、平成9年(1997年)のことでした。地区の面積は約18.3ヘクタールです。町は江戸時代、高知と室戸を結ぶ浜街道沿いにでき、明治から昭和初期にかけては良質な備長炭の集散地としてにぎわいました。
備長炭の原料は、火力の強いカシ類です。近世の大坂や京では、この炭が重宝されていました。木炭の品質が大きく上がったのは、大正元年に製法を学んだあととされます。昭和30年代後半からいったん衰えたものの、いまは若い世代も炭づくりに取り組み、地域の産業として受け継がれています。
町を歩くと、土佐漆喰の白壁と水切り瓦、それに蔵が目に入ります。内陸側に見られるのは、玉石や半割石を積み上げた「いしぐろ」と呼ばれる石垣塀です。地元では吉良川町並み保存会が中心となり、ひな祭りなどの催しを続けています。
重要伝統的建造物群保存地区は文部科学大臣が選定する
重要伝統的建造物群保存地区は、文化財保護法(第144条)にもとづく制度です。まず市町村が伝統的建造物群保存地区を定めます。そのなかで国から見て特に価値の高いものを、市町村の申し出にもとづいて文部科学大臣が選び、全部または一部を重要伝統的建造物群保存地区とします。
制度ができたのは、1975年(昭和50年)の法改正のときでした。市町村は地区を決めたうえで、保存条例にもとづき保存活用計画を立てます。国は修理や修景、防災事業などに補助金を出し、税制の優遇措置も設けています。
室戸の食は金目鯛と海洋深層水、段丘育ちのさつまいも
室戸市の名物は、金目鯛と海洋深層水です。深層水の恵みを受けた金目鯛の鮮魚と加工品、お酒など、特産品はたくさんあります。金目鯛炊き込みごはんは室戸の郷土料理で、金目鯛以外の具を入れないため、素材の旨みがよくわかります。
室戸の東海岸は海底の傾斜が急なので、陸から比較的近い距離で深層水をくみ上げられます。深層水を使って、塩や醤油、アイスクリーム、ミネラルウォーター、化粧品といった商品が作られています。ふるさと納税の返礼品には、深層水を使って仕込んだお酒や、栽培に深層水のにがりを使ったナスも並びます。
吉良川町に広がる海成段丘の土は、昔の海底にたまった堆積物がもとになっていて、水はけがよく芋づくりに向いています。この段丘で育つのが、室戸市ブランドのさつまいも「西山きんとき」です。
室戸沖は4月から10月ごろにクジラを見られる海
室戸岬の沖合には水深が1000mにもなる海が広がり、そのまわりにはマッコウクジラの餌になる生き物がたくさんいます。クジラが回遊する道筋にもあたっていて、マッコウクジラもニタリクジラも見られます。ホエールウォッチングとドルフィンスイムが楽しめるのは、暖かい4月から10月ごろです。
室戸では、土地のクジラ漁の歴史もたどれます。室津の中道寺に建つ記念碑が、その歴史を今に伝えています。
室戸岬を走る日は補給と道路情報の確認から始める
甲浦駅から奈半利駅までの約80kmを走る日は、補給の場所と道路情報を出発前に確かめておきましょう。四万十帯の付加体と海成段丘がつくった岬には、空海ゆかりの御厨人窟や最御崎寺、備長炭の町として栄えた吉良川の町並みが点在しています。








