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滋賀県近江八幡市の西の湖は、琵琶湖と水路で結ばれた内湖のうち、今も残るなかで最大の湖です。周りを自転車で走ると、入り組んだ水路と広いヨシ原、水田と集落が続く景色に出会えます。この一帯は「近江八幡の水郷」として、全国で最初に国の重要文化的景観に選ばれました。
西の湖が面しているのは琵琶湖の東岸で、水郷地帯のちょうど中心にあたります。湖のほとりに広がるヨシ群落は109ヘクタールあります。2008年には琵琶湖のラムサール条約登録地にも加わりました。
琵琶湖を自転車で1周するビワイチのルートからも、湖東側にあるので寄り道しやすい位置です。駅前でレンタサイクルを借りて湖の周りを走り、和船や手漕ぎ舟に乗り換えて水路の奥へ入る。そんな回り方をすると、水郷を岸からも水面からも楽しめます。

西の湖の周りは自転車で水郷を巡りやすい道がそろう
西の湖の周辺はサイクリングに向いた場所です。環境省は、西の湖で行われている取り組みとして和船遊覧や農業法人による地域おこしと並べて、サイクリングロードを挙げています。湖の東側では湖岸沿いの道路が整っており、走りやすい道として案内されています。
ビワイチの湖東側で水郷に立ち寄れる
琵琶湖をぐるりと1周するルートはビワイチと呼ばれます。1周の距離は約150キロから約200キロで、西の湖はその湖東側に位置しています。
国土交通省のナショナルサイクルルートとしてのビワイチは、大津市唐橋町を起点と終点にして、湖岸を反時計回りの一方通行で走る約193キロメートルの区間です。コースは近江八幡市や東近江市、彦根市、米原市、長浜市などの湖岸を抜けていきます。
2018年11月、ビワイチは国が選ぶナショナルサイクルルートの第1号になりました。国が評価したのは、路面を整えたり案内看板を立てたりして、安全に気持ちよく走れる環境をつくってきた点です。レンタサイクルの貸出拠点やサポートステーションを備えている点も、選定の理由になりました。
青線のある道では琵琶湖側を走る
湖岸には、琵琶湖側に青い線を引いた自転車歩行者専用道路があります。ここでは自転車が青線より琵琶湖寄りを走り、車とバイクは青線の外側を走る決まりです。
滋賀県は「BIWAICHI Cycling Navi」というアプリを出しています。走った時間や消費カロリー、獲得標高を記録できます。今いる場所からコースまでの道順を調べる機能もついています。
出発点は近江八幡駅と安土駅の2つから選べる
自転車は、JR近江八幡駅とJR安土駅のそれぞれの近くで借りられます。駅ごとの貸出場所と、湖までの行き方は次のとおりです。
| 出発する駅 | 自転車を借りる場所 | 西の湖までの行き方 |
|---|---|---|
| JR近江八幡駅 | 駅から歩いて1分の「駅リンくん」JR近江八幡駅営業所(近江八幡市鷹飼町597-1、6時30分から23時まで営業) | 円山方面へ向かうバスが出ている |
| JR安土駅 | 安土観光レンタサイクルなど、駅の周りに貸出店が複数ある | 歩いても20分ほどで着く |
自転車と舟を組み合わせると水郷を陸と水から味わえる
自転車で周りを走ったあとに舟で水路へ入ると、西の湖の水郷を陸と水の両方から味わえます。ヨシ原と並んで真珠養殖の柵が見られる景色は、西の湖だけのものとされています。
水郷めぐりの舟は4社が運航している
西の湖周辺から出る水郷めぐりの舟には、和船や手漕ぎ舟があります。運航している会社は全部で4社あり、内訳は手漕ぎボートの会社とモーターボートの会社が2社ずつです。乗り場はいずれも、JR近江八幡駅からバスに乗って15分以内で行ける場所にあります。
乗り場は会社ごとに違います。自転車で行く場合は、どの会社の舟に乗るかを決めたうえで、乗船場所と走るルートの位置関係を前もって確かめておいてください。
乗合船に乗る場合は、JR近江八幡駅で近江バスの「長命寺行き」と「国民休暇村行き」のどちらかを選び、「豊年橋和船乗り場口」で下車します。そこから乗り場までは歩いて約2分です。円山バス停で降りるとすぐ乗り場、という舟もあり、こちらは近江バスで駅から約15分かかります。
仲間と出かけるなら貸切にもでき、グループ旅行ではそのほうが割安になります。船の上で食事をとることもできます。弁当か近江牛のすき焼きのどちらかを選ぶ形で、料金は乗船料とは別にかかります。
琵琶湖八景のひとつに「春色・安土八幡の水郷」があり、この景色を巡る船は豊年橋や円山などから出ています。
1時間ほどの舟旅で約50種類の鳥を見た人もいる
手漕ぎ舟の場合、1時間ほどかけて水路を回る人が多いようです。舟はヨシ原のあいだを進むので、乗ったまま野鳥を観察できます。利用した人のなかには、約50種類もの鳥を見たという人がいました。
西の湖は現存する最大の内湖でヨシ群落は109ヘクタール
西の湖の周辺では水路が迷路のように入り組み、湖の周りはヨシ原に囲まれています。
内湖は琵琶湖の周りに残った小さな湖
内湖とは、琵琶湖のまわりにあり、水路で琵琶湖とつながっている小さな湖を指します。滋賀県の計画では、湖岸の内側にできた池や沼、クリークなどをまとめて内湖と呼んでいます。土砂がたまって琵琶湖から切り離された湖、と説明されることもあります。
明治から昭和の初めごろまで、琵琶湖の周りには約40か所の内湖がありました。ところが1943年から1971年にかけて干拓事業などが進み、そのうち約85パーセントが失われています。いま残っているのは33か所で、面積は合わせて約540ヘクタールです。
内湖を全部合わせても、面積は琵琶湖全体の約0.6パーセントです。それでも、琵琶湖の周りにあるヨシ群落の約60パーセントは内湖に集まっています。内湖は、珍しい生きものが暮らす場所にもなっています。
平均水深は約1.5メートルと浅い
2008年10月にラムサール条約の登録地として広げられた西之湖の範囲は、382ヘクタールです。平均の水深は約1.5メートルしかなく、湖の水が入れ替わるまでには約19日かかります。ヨシ群落は109ヘクタールにわたり、近畿地方でも最大級の広さを持ちます。
2008年にラムサール条約の登録地へ加わった
ラムサール条約は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」というのが正式な名前です。採択は1971年、場所はイランのラムサールでした。水鳥がすむ湿地など国際的に大切な湿地と、そこに暮らす動植物を守り、あわせてワイズユース(持続可能な利用)を進めるための条約です。
国際的に重要な湿地として選ぶための基準は9つ定められています。日本ではそれに加えて、国内の法律で保全の仕組みが整っていることと、地元の自治体が登録に賛成していることも条件になっています。
琵琶湖が登録されたのは1993年6月でした。その後、2008年に韓国で開かれた締約国会議で、西の湖が琵琶湖の登録地に組み込まれます。このときは長命寺川も一緒に登録範囲へ加わりました。西の湖は琵琶湖の湿地の一部として、国際的にも大切な場所に位置づけられたことになります。
「近江八幡の水郷」は2006年1月26日に全国初の重要文化的景観に
西の湖とその周りは、「近江八幡の水郷」の名で国の重要文化的景観に選ばれています。文化庁の文化遺産オンラインに載っている選定日は2006年1月26日で、全国で最初の選定でした。
守られているのは約354ヘクタールの区域
選定された範囲は、琵琶湖と近江八幡の町のあいだに広がる約354ヘクタールです。西の湖、長命寺川、八幡堀とそれぞれの周りのヨシ地、さらに円山と白王の集落が含まれます。水路とヨシ原、水田、集落が入り混じった眺めを、ばらばらにではなく、まとめて一つの景観として守っています。
選ばれた理由は、この景観が人々の暮らしや仕事と結びついて育ってきたことにあります。ヨシを使う産業に欠かせない環境を、地元の住民が数百年にわたって共生しながら保ってきた点が評価されました。
重要文化的景観は2005年に始まった制度
重要文化的景観は、地域の人々の生活や仕事と、その土地の風土から生まれた景観のなかでも、特に大切なものを国が選ぶ制度です。文化財保護法は、文化的景観を文化財の種類のひとつとして扱っています。制度ができたのは、同じ法律が改正された2005年4月1日でした。
選定するのは文部科学大臣です。都道府県や市町村から申し出があり、地元の自治体が保存に必要な手立てをとっていることが前提になります。選ばれたあとに景観を変える行為をする場合は届け出が必要で、文化庁長官が指導や助言、勧告をできる仕組みになっています。
円山のヨシは今もすだれや葭簀の材料になっている
西の湖のヨシは丈夫さで知られ、昔から屋根をふく材料や衝立、すだれに使われてきました。北岸の円山では、ヨシからつくる簾や葭簀、さらに高級な夏用建具の製造がいまも続いています。
近江商人の流通網が円山を産地に育てた
文化庁は、円山の集落が近江商人のつくった流通の道を通じて売り先を広げ、ヨシの産地として名を知られるようになったと解説しています。作り手の数は減ったものの、「ヨシ地焼き」などの作業はいまも昔ながらのやり方を残しています。
江戸の日本橋で近江商人が売っていた品物は、湿地に生える植物を原料にした品が多く、近江表や近江上布がその例だと伝わります。
ヨシとアシは同じ植物
ヨシは、アシと呼ばれる植物の別名です。学名はPhragmites australisといいます。「アシ」の音が「悪し」に通じるのを嫌い、「善し」にかけて「ヨシ」と呼ぶようになった、という由来の説明があります。
植物としてはイネ科の多年草で、沼や川の岸辺に大きな群れをつくって生えます。背丈は2メートルから3メートルに達し、茎は円柱形で堅いのが特徴です。
ヨシ原は水と岸と生きものを支えている
ヨシ原には、材料になる以外にもいくつもの働きがあります。水の中の窒素やリンといった栄養分を吸い上げて水をきれいにし、波が湖岸を削るのを防ぎます。水鳥や魚、貝のすみかになり、魚類が卵を産んで育つ場所にもなっています。
ただし、ヨシが吸い上げた栄養分は植物の体にたまったままです。刈り取って湖の外へ運び出さなければ、水をきれいにする働きは十分に発揮されません。刈ったヨシの使い道として、滋賀県は炭にする方法を報告しています。炭にすれば土を良くする資材や肥料になり、穴の多い炭の性質を生かして濁った水の処理や脱臭にも使えます。
京都大学は、西の湖のヨシを守る意味として、こうした働きに加えて二酸化炭素の削減を挙げています。ヨシのある景色そのものも、安土の魅力として紹介されています。
ヨシ刈りとヤナギの伐採がヨシ原を守る
西の湖では毎年、地域のボランティアと企業が協力してヨシ刈りを行っています。環境省も、企業の社会貢献活動として続くヨシ刈り運動を紹介しています。
滋賀県は西の湖のほか伊庭内湖でも、ヤナギを伐ってヨシを刈る作業を実施しています。ヤナギを切った区域では、ヨシが戻ってきたところが多くあります。湖岸に流れ着いたごみを片づける清掃も、ヨシ原を保つうえで欠かせない作業です。
西之湖園地では、近江八幡市の市民による自然観察会がヨシを刈っています。冬から春先にかけて、何回かに分けて開かれる催しです。同じ市の「いまさかPJ」は、ボランティアで手入れされなくなった竹林を間伐し、耕作をやめた水田やヨシ原の再生と組み合わせて進めています。
ヨシ原ではカイツブリやヨシキリなど季節ごとの野鳥に出会える
湖を囲むヨシ原で出会える野鳥には、サギやヨシキリ、それに滋賀県の県鳥カイツブリがいます。
カイツブリは滋賀県では留鳥なので、季節を問わず姿を見られる可能性が高い鳥です。全長は約26センチで、昔から琵琶湖とその周りの川にすんでいます。
ヨシキリの仲間は夏鳥です。初夏になるとヨシ原でにぎやかにさえずり始めます。
西の湖の水質はアオコと底層の酸素不足が課題
西の湖の水質は、ここ数年で課題を抱えるようになりました。滋賀県は、窒素以外の水質の値が上がっていることを確かめています。県は、水草の刈り取りなどの後に沈水植物が茂らなくなってから、この上昇がはっきりしてきたと整理しています。
カビ臭の発生とヒメタニシの減少
2016年には、西の湖から流れ出る長命寺川で、カビのようなにおいの原因物質を生み出す植物プランクトンが発生しました。その影響で浄水場の水にカビ臭が出ました。湖底のヒメタニシも数を減らし、2019年からはほぼ見られない状態です。
しゅんせつと酸素の送り込みによる再生の取り組み
湾奥部では東近江土木事務所が、2000年から2017年までの期間にしゅんせつを実施しました。2020年度に入ってからは、湖に流れ込む川がどれだけの負荷を運んでいるかを調べ、関係する機関と意見を交わしながら次の手を検討しています。県が目指しているのは、アオコの発生が抑えられた湖です。
湖の底へ高い濃度の酸素を送り込む装置を置き、水質などの変化を調べる実証も行われました。試験区では、底層の溶存酸素がよくなったことが確かめられています。環境省の事業としても、気候変動に合わせた適応策を試す実証が2022年度から2026年度までの予定で西の湖で進んでいます。
底層の溶存酸素(DO)とは、湖底付近の水に溶け込んでいる酸素の量を指します。底層にすむ魚介類が生きて繁殖するうえで、特に大切な要素です。湖でこの値が下がるおもな原因は、植物プランクトンが大量に増えることと、水温の違いで水が層に分かれることにあります。2016年3月には底層DOの環境基準ができ、湖沼では1リットル中2.0ミリグラムが基準値です。底に酸素を送って改善を図る方法は、秋田県の八郎湖などほかの湖でも紹介されています。
アオコは藍藻が増えて水面を緑に覆う現象
アオコとは、藍藻(シアノバクテリア)の仲間が水中で一気に数を増やし、湖面が緑色の膜で覆われたように見える現象を指します。日本など温帯の地域で報告が最も多いのはミクロキスティス属で、ミクロキスチンという毒素をつくることでも知られています。
藍藻は「ガス胞」と呼ばれる浮き袋のようなしくみを持ち、1日のうちに湖の表面と底のあいだを浮いたり沈んだりします。アオコが増える背景には、田畑や家庭から出る排水に入っている窒素とリンが湖へ過剰に流れ込む富栄養化があります。琵琶湖全体では、2023年度にアオコが発生した日数が過去最多を記録しました。
西の湖では2026年6月19日に、その年初めてのアオコが確認されました。滋賀県は、この時期の発生は例年並みだと発表しています。
西の湖とつながる八幡堀は1585年に掘られた運河
西の湖には、近江八幡の八幡堀がつながっています。八幡堀は人の手で掘られた運河で、近江商人が商いを広げる支えになりました。
始まりは1585年です。豊臣秀次が八幡山城を築くときに掘らせたもので、全長は約4.75キロメートルあります。町と琵琶湖を結ぶ水の道として、京都や大阪、江戸などとのあいだで物を運ぶ役目を担いました。
八幡山城は1595年に廃城になりましたが、堀はその後も運河として使われ続けました。おかげで近江八幡は交易の要所であり続けます。町の北東側には水郷地帯が続いていて、この水郷は琵琶湖八景にも選ばれています。
南側の安土には安土城跡がある
西の湖の南側は安土の地域で、国の特別史跡の安土城跡はJR安土駅から歩いて25分ほどです。周辺には観音寺城跡や観音正寺、桑實寺もあります。
西の湖は自転車と舟でヨシ原の水郷を巡れる近江八幡の内湖
西の湖は、琵琶湖東岸の水郷地帯の中心にある、現存最大の内湖です。109ヘクタールのヨシ群落を抱え、ラムサール条約の登録地にも、全国初の重要文化的景観「近江八幡の水郷」にも含まれています。
自転車はJR近江八幡駅かJR安土駅の近くで借りられ、ビワイチの途中で寄ることもできます。走ったあとに4社のいずれかの舟に乗れば、ヨシ原の内側から野鳥を眺められます。円山ではヨシを使った簾づくりが続き、毎年のヨシ刈りやアオコへの対策など、湖を守る作業もいまも続いています。








