鳥取県鳥取市佐治町栃原と岡山県苫田郡鏡野町上齋原の境にある辰巳峠は、標高がおよそ786メートルから790メートルに達する峠です。国道482号伯耆街道がこの峠を通り、鳥取駅から千代川と佐治川をさかのぼって峠を越え、岡山県側の恩原高原まで抜けるルートは、中国地方でも屈指のヒルクライムコースとして自転車乗りに知られています。総距離は約46.6キロ、累積獲得標高は約789メートルで、公式には中級者向けのサイクリングルートに位置づけられています。峠の北側は佐治川沿いのワインディングロード、南側は高原地帯という対照的な景観が続き、道中には流しびなの伝統や星空観賞スポットなど、寄り道したくなる見どころも点在しています。この記事では、辰巳峠の基本データからコースの流れ、走行時の注意点、アクセス方法まで、辰巳峠を目的地にしたサイクリングを計画するために必要な情報をまとめました。

辰巳峠は鳥取市佐治町と岡山県鏡野町を結ぶ標高786メートルの県境
辰巳峠は、鳥取県鳥取市佐治町栃原と岡山県苫田郡鏡野町上齋原の境界に位置する峠です。標高はおよそ786メートルから790メートルとされ、資料によって数値に多少の差があるものの、中国地方の峠の中でも屈指の存在として知られています。峠を通るのは国道482号、通称伯耆街道で、京都府・兵庫県・鳥取県・岡山県を結ぶ長い国道のうち、県境をまたぐ象徴的な区間にあたります。峠の北側は佐治川に沿ったワインディングロードが続き、南側は岡山県側の恩原高原へとつながる高原地帯になっていて、峠を境に景観がはっきりと切り替わります。峠には駐車スペースがあり、峠の茶屋的な休憩ポイントとしてサイクリストにも利用されています。
峠の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 鳥取県鳥取市佐治町栃原〜岡山県苫田郡鏡野町上齋原 |
| 道路 | 国道482号(伯耆街道) |
| 標高 | 約786〜790メートル |
| 接続 | 北は鳥取市街(千代川・佐治川流域)、南は岡山県鏡野町の恩原高原・上齋原方面 |
| 道路状況 | 舗装済みで、積雪期を除けば走行に大きな支障はないとされる |
| 休憩施設 | 峠付近に駐車スペースあり |
道幅や見通しも比較的良好なため、ヒルクライムの練習やロングライドの目的地として選ばれることが多い峠です。国道482号は、京都府から兵庫県、鳥取県、岡山県の4府県にまたがる一般国道で、区間ごとの延長は京都府が約95.5キロ、兵庫県が約80.9キロ、鳥取県が約115.8キロ、岡山県が約42.0キロとされ、総延長は330キロを超えます。複数の府県境を越えながら中国山地を横断するこの長大な国道の中でも、辰巳峠は鳥取県と岡山県の境をなす代表的な峠のひとつに数えられます。
鳥取と岡山を結ぶ接続サイクリングルートは総距離46.6キロで2019年度に鳥取県側が整備完了
辰巳峠を含む鳥取岡山接続サイクリングルートは、日本海と瀬戸内をつなぐ広域サイクリングルート構想の一環として計画され、鳥取県側の区間は令和元年度、西暦でいう2019年度に整備が完了しました。岡山県側に整備された岡山鏡野縦断ルートとは、両県の境である辰巳峠でちょうど接続する形になっていて、鳥取市と岡山市を自転車でつなぐ広域ルートの一部を構成しています。ルートはJR鳥取駅を起点とし、総距離はおよそ46.6キロ、最大獲得標高は約782メートル、累積獲得標高は約789メートルにのぼり、中級者向けのヒルクライムルートに位置づけられています。鳥取県東部を流れる千代川に沿って北から南へ縦断する形で進むため、川筋をたどっていけば迷いにくく、初めて走る人でもコースを把握しやすい構成です。鳥取自動車道の開通によって並走する一般道の交通量が分散されたこともあり、以前に比べて安全にサイクリングを楽しめる環境が整ってきました。ルート後半、恩原高原の湖畔にたどり着いたときの達成感は、このコースならではの醍醐味です。
鳥取県はバイシクルタウン構想のもとでサイクリング環境の整備を進めている
辰巳峠越えのコースは、鳥取県が進める自転車を軸にしたまちづくりの流れのなかに位置づけられたルートのひとつです。県は自転車を活用したまちづくりを目指す鳥取県バイシクルタウン構想を掲げ、その理念を発展させる形で鳥取県自転車活用推進アクションプログラムを策定してきました。県内ではサイクリスト向けの支援体制としてダイジョウブシステムと呼ばれる仕組みが広がっていて、休憩や給水、簡単な工具の借用に対応してくれる拠点をルート沿いで見つけやすくなっています。県東部を縦断する鳥取岡山接続サイクリングルートのほかにも、鳥取市から境港市にかけて県内を東西につなぐ鳥取うみなみロード(とっとり横断サイクリングルート)が東部・中部・西部・弓ヶ浜の各区間に分かれて整備され、県内全域でサイクリング環境の充実が進められています。JR山陰本線ではサイクルトレインの運行も行われていて、輪行の手間を減らしながら県内各地のルートへアクセスしやすい環境が整いつつあります。
鳥取駅から辰巳峠までのコースは千代川沿いの平坦区間から始まる
鳥取駅を出発すると、まず千代川沿いを南下していきます。序盤は平坦に近く、川沿いの景色を楽しみながらウォームアップできる区間です。しばらく進むと用瀬町に入ります。用瀬町は鳥取市中心部から南へ約21キロの位置にあり、面積の約92パーセントを林野が占める自然豊かな町で、千代川の支流である赤波川、佐治川、安蔵川に沿って集落が広がっています。用瀬町を抜けるとルートは佐治川沿いへと入り、佐治町エリアに差しかかると道は徐々に山あいの雰囲気を強め、勾配も少しずつきつくなっていきます。
用瀬町は流しびなの伝統が息づく寄り道スポット
用瀬町は、江戸時代から続くとされる流しびなの風習で知られる地域です。3月の節句には、1年間の災厄を移した男女一対の紙雛をさん俵に乗せ、菱餅やおいり、桃の花などを添えて川に流し、無病息災や子どもの成長を願う伝統行事が行われます。この行事は昭和60年に鳥取県の無形民俗文化財、もちがせの雛送りに指定されていて、その原型は平安時代にさかのぼるともいわれています。町内には流しびなの館のほか、景石城跡、三角山神社、東井神社、東光寺といった寺社、赤波川渓谷甌穴群や中津美渓谷不動滝といった景勝地もあり、走りながら立ち寄れる寄り道スポットが点在しています。
佐治町は日本有数の星空とさじアストロパークが魅力
佐治町は、星、梨、和紙、話、石を地域資源とする、通称五しの里として知られる地域です。なかでも星空の美しさは際立っていて、国内でも有数の星空観賞地とされています。町内には日本最大級、口径103センチの望遠鏡を備える市営天文台さじアストロパークがあり、プラネタリウムでは専門職員による生解説も行われています。園内には望遠鏡付きの宿泊施設、星のコテージや、ペンションタイプのコスモスの館も併設されていて、峠越えの前後に星空観賞を組み合わせた一泊二日のサイクリングプランを組むこともできます。
佐治町栃原から辰巳峠山頂までは勾配が徐々に強まるロングクライム
佐治町栃原の集落を過ぎると、いよいよ辰巳峠への本格的な登りが始まります。峠の北側、鳥取側は佐治川に沿ったワインディングロードになっていて、川のせせらぎを聞きながら高度を上げていく展開です。標高が上がるにつれて視界が開け、樹林帯を抜けるあたりから中国山地らしい山並みが見渡せるようになります。道路自体は整備が行き届いていて、積雪の心配がない時期であれば走行上の大きな難所は少ないとされています。ただし峠に近づくほど勾配は確実にきつくなっていくため、ギアの選択やペース配分には注意が必要です。ルート全体の累積獲得標高が約789メートルにのぼることからも、麓からコンスタントに標高を積み重ねていくロングクライムであることがわかります。峠の頂上付近には、ひと息入れられる駐車スペースが設けられていて、ここで小休止を取り、水分補給や補給食を摂るサイクリストの姿もよく見られます。県境の標識やわずかに開けた展望から、鳥取県側と岡山県側それぞれの山並みを眺められるのも、峠を越える楽しみのひとつです。
辰巳峠を越えた先の恩原高原は標高700メートル前後の高原地帯が広がる
辰巳峠を越えて岡山県側に入ると、景色は一転して高原らしいおおらかな雰囲気に変わります。峠の南側は白樺林やカラマツ林が広がる恩原高原で、標高700メートル前後の高原地帯が続きます。恩原高原は人形峠の東およそ9キロに位置し、キャンプやグラウンドゴルフ、釣り、サイクリング、冬にはスキーやスノーボードまで楽しめる、四季を通じてアクティビティが充実したエリアです。高原の東部には周囲約4.5キロの恩原湖が広がっています。夏は高原を吹き抜ける風と木漏れ日が心地よく、秋には紅葉した木々が湖面に映り込み、黄色く色づいたカラマツの絨毯が敷き詰められたような景観になります。さらに冬、12月下旬から1月にかけては、凍りついた湖面に氷紋と呼ばれる直径5メートルから30メートルほどの円形模様が現れることがあり、青みがかった大小の氷の渦巻き模様が湖上に景色を作り出すことで知られています。サイクリングシーズンとしては夏から秋にかけてが特におすすめで、紅葉期には湖畔散策とセットで立ち寄る価値があります。
人形峠と上齋原地区にはウラン開発の歴史と名水がある
恩原高原からさらに南へ進むと、鏡野町上齋原地区に入ります。ここは人形峠で世界的にも知られるエリアで、1955年11月にウラン鉱床が発見されたことをきっかけに、ウラン採鉱の試験やウラン精錬、濃縮技術の開発が進められた歴史を持つ場所です。人形峠周辺には日本原子力研究開発機構の人形峠環境技術センターがあり、周辺案内施設も整備されています。また、人形峠から約100メートルの場所にある岩井の泉は、1985年3月に日本名水百選に選定された名水で、子宝に恵まれるといわれる縁起の良い水としても紹介されています。標高700メートル超のこのエリアは、春はヤマボウシの花、夏はキャンプ、秋は紅葉、冬は温泉やスキーと、四季それぞれの魅力を持つ土地です。峠を越えたあとのクールダウンライドとして、これらのスポットを巡るのも良い選択でしょう。このように辰巳峠を挟んだルートは岡山鏡野縦断ルートと接続し、さらに南下すれば岡山市方面まで自転車でつながる広域サイクリングルートの一部を形成しています。日帰りで峠を往復する走り方もあれば、片道を輪行や車でのピックアップと組み合わせて縦走する走り方もあり、走行プランの自由度が高いのも魅力です。
辰巳峠のヒルクライム難易度は中級者向けで累積獲得標高789メートル
辰巳峠を含むこの鳥取岡山接続サイクリングルートは、公式に中級者向けの難易度とされています。鳥取駅からの総距離約46.6キロに対し、最大獲得標高約782メートル、累積獲得標高約789メートルという数値からもわかる通り、単発の激坂というよりは、じわじわと標高を積み重ねていくロングヒルクライムに近い性格を持っています。序盤の千代川沿いは平坦基調で体力を温存しやすく、用瀬町から佐治町にかけて徐々に勾配が強まり、佐治町栃原から峠にかけての最終盤で本格的な登りに切り替わるという、段階的に負荷が上がっていく構成です。そのため、初めて長距離のヒルクライムに挑戦するサイクリストにとっても、ペース配分さえ誤らなければ無理なく挑戦しやすいコースといえます。一方で、獲得標高800メートル弱を鳥取駅からの往復、あるいは岡山側までの縦走で走りきるにはそれなりの体力と補給計画が必要になるため、初心者だけで臨む場合は峠の途中までを目標にするなど、無理のない距離設定を検討するのもおすすめです。
長い上りを走りきるための基本
ロングヒルクライムでは、序盤から積極的に踏み込むより、心拍数を一定に保ちながら軽めのギアで淡々と回すペース配分が有効とされています。標高差800メートル弱を一気に登り切ろうとするのではなく、平坦区間で脚を温存し、勾配が増していく後半に体力を残しておく走り方が、辰巳峠のように終盤にかけて傾斜が強まるコースには向いています。給水や補給食は喉が渇く前、空腹を感じる前のタイミングでこまめに摂ることが、長距離のヒルクライムで失速を防ぐポイントです。
辰巳峠を走るときの注意点は積雪期の路面凍結と補給ポイントの少なさ
冬季の路面状況には気をつけておきたいところです。国道482号の辰巳峠付近は、岡山県の冬期道路気象情報システムで積雪深などが観測されているエリアに含まれていて、積雪や路面凍結のリスクがある区間として位置づけられています。冬場は自然の積雪量が多くなる地域であるため、積雪期のヒルクライムは避け、春から秋にかけての時期を選んで走行するのが安全です。コース中盤から終盤にかけては山あいの区間が続くため、コンビニや自動販売機など補給ポイントが限られる可能性もあります。用瀬町、佐治町エリアで事前に補給食や飲料を確保しておくと安心です。峠を越えて岡山県側に下る場合は、下り基調の区間でスピードが出やすくなるため、路面状況やカーブの見通しに注意しながら安全な速度で走行することが大切です。交通量については、鳥取自動車道の開通により並行する一般道の通行量が分散され、以前より走りやすい環境になったとされていますが、峠道特有のブラインドカーブなども存在するため、対向車や後続車への注意は引き続き必要です。装備の面では、パンク修理キットや携帯ポンプ、予備チューブを携行しておくと、補給ポイントが少ない山あい区間でのトラブルにも落ち着いて対応できます。峠付近は平地より気温が下がりやすいため、薄手のウインドブレーカーなど1枚羽織れるものを用意しておくと、下りでの体温低下を防ぎやすくなります。
鳥取駅からのアクセスとレンタサイクル情報は電動アシスト1000円から
辰巳峠へのサイクリングは、JR鳥取駅を起点とするルートが基本になります。鳥取駅からは観光レンタサイクルも利用でき、鳥取駅高架下第2自転車駐車場で貸し出しが行われています。料金の目安は、電動アシスト自転車が1回1,000円、普通自転車が1回500円とされていて、手ぶらで鳥取を訪れてもサイクリングを楽しめる環境が整っています。ただし本格的なヒルクライムには、レンタサイクルよりもロードバイクなど専用車での持ち込みが向いています。また、佐治町方面へは鳥取自動車道の用瀬パーキングエリアからも比較的近く、車に自転車を積んでアクセスし、佐治町周辺から辰巳峠を目指す、峠のみ集中して走るプランも選択肢のひとつです。JR用瀬駅からさじアストロパークまでは車で約20分とされていて、公共交通と組み合わせたアクセスも検討できます。
辰巳峠で楽しむサイクリングのおすすめシーズンは新緑の初夏から紅葉の秋まで
辰巳峠エリアを自転車で楽しむなら、新緑が美しい初夏から、紅葉が見頃を迎える秋にかけてが特におすすめです。夏は高原ならではの涼しい風が心地よく、峠を越えた先の恩原高原ではキャンプや湖畔散策も合わせて楽しめます。秋は佐治川沿いの渓谷美に加え、恩原湖畔の紅葉、黄金色に染まるカラマツ林など、峠の南北で異なる紅葉風景を一日で味わえるのが大きな魅力です。佐治町は日本一の星空とも称される星空観賞スポットとして知られていて、日中にヒルクライムで汗を流したあと、夜はさじアストロパークで満天の星を眺めるという組み合わせも、このエリアならではの楽しみ方です。冬は積雪や路面凍結のリスクが高まるため、ヒルクライム目的での訪問は避け、恩原高原のスキー場など別のアクティビティで楽しむのがよいでしょう。
まとめ
辰巳峠は、鳥取市街から千代川と佐治川を遡り、県境の峠を越えて岡山県の恩原高原、上齋原方面へと抜ける、中国地方屈指のヒルクライムルートです。鳥取駅からの総距離約46.6キロ、累積獲得標高約789メートルという数値が示す通り、単なる激坂ではなく、平坦区間から徐々に負荷が高まっていく本格的なロングヒルクライムとして楽しめるのが特徴です。道中には、流しびなの伝統が息づく用瀬町、日本有数の星空を誇る佐治町、白樺とカラマツの美しい恩原高原、ウラン開発の歴史と名水を持つ人形峠、上齋原など、峠越えの前後にも見どころが数多く点在しています。峠を越える達成感だけでなく、鳥取と岡山、それぞれの県の異なる自然や文化を一本の道でつなぎながら味わえる点が、この峠道ならではの魅力です。積雪期を避け、体力や経験に見合った補給計画をしっかり立てたうえで、鳥取駅から辰巳峠、そして恩原高原、上齋原方面へと続く広域サイクリングルートに挑戦してみるのもよいでしょう。








